10話 驚異の成長
何度もダンジョンを潜り、危険を乗り越えるたびに、俺は成長していった。だが、成長の実感が伴うのは、恐らく今回の探索が初めてだろう。ついに「バグ技」を活かしきれるかもしれないと感じた。
葵と一緒に探索を続ける中で、俺はあることに気づく。ダンジョンの構造には予想以上に隠れた秘密が多いことだ。そして、その秘密を解き明かすのが、今の俺の使命だと思えてきた。
「どうしたの、健斗?」葵がふと振り返る。彼女は、俺の進み具合に気づいていたのだろう。いつものように冷静で、落ち着いていた。
「いや、ちょっと考えごとだよ。」俺は笑いながら答えた。葵はそのまま軽くうなずくと、再び前を向いて歩き始める。
今回はFランクではなく、少し上のEランクダンジョンに挑戦していた。モンスターの強さも、以前より一段階強くなった気がするが、葵と一緒にいれば、少し無理をしても何とかなるだろう。
そんな時、ふと足元を見て、ひらめきが湧いた。
「もしかしたら…」
俺は思わず立ち止まり、ダンジョンの床をじっと見つめる。ダンジョンの床は石でできていて、隙間もある。だが、何かおかしい。モンスターと戦いながらこの場所を歩いていると、時々足が地面に吸い込まれるような感覚があった。
その感覚に、何かピンとくるものを感じ取った。
「床…すり抜けられたら、もっと早く深い場所に進めるんじゃないか?」
すぐにその可能性が現実のものとなることを確信した。今まで何度も壁をすり抜けてきたが、床ならどうだろう。やってみる価値はある。
「葵、少し待っててくれ。」俺は慎重にダンジョンの床を確認し、次にどんなバグ技が発動するのか、実験を始める。
「え、何かするの?」葵は少し驚いたようだが、無理に引き止めることはなかった。彼女も俺の成長を見ていると信じているだろうから。
俺は集中して、その瞬間を待つ。そして、意識を集中させ、床に足を踏み出した。突如として、足が床をすり抜けるような感覚が走った。
「成功…!」
地下に埋もれた宝箱の近くにいた俺は、瞬時にその位置を察知し、床を抜けて地下へと降りていった。
「うわ、すごい…!」
葵もその瞬間、驚きの声を上げる。目の前に現れたのは、ずっと手が届かなかった場所の奥に隠れていた宝箱だ。俺はすぐにその宝箱を開ける。
中身は、普通の武器と防具だったが、何もかもが自分の手に届く範囲になったと実感できた。
「これで、また少し強くなった。」俺は自分の腕を見ながら、確かに感じた手ごたえを噛みしめる。
それから数日間、Eランクダンジョンでの探索を繰り返した。もはや、俺のバグ技を活かした探索スタイルが、安定してきていた。空中ジャンプや壁をすり抜ける技術を駆使し、俺はどんどんダンジョン内を駆け巡った。
だが、これでもまだ成長を感じるには足りなかった。
「…いつかはSランク、行ってみようか。」葵がちらりと俺に目を向け、笑う。その笑顔を見て、俺は決意を固める。もう少し、強くならなければならない。




