-09- 引きこもり と ダンジョン(の外)
探索者試験の2日後、1次試験合格と書かれたハガキが届いた。ハガキには2次試験の日時と場所の記載があった。
2次試験は実際にダンジョンに入る実地訓練だ。試験の内容は問題ないだろう。だが会場が遠い。
「どうしよう・・・行くの面倒だな」
「カゲちゃん、私も同じ時間に同じ会場だよ。無理矢理にでも連れていくから安心して」
俺は行くのがイヤになってるのに、何を安心すれば良いのだ。
「替え玉受験する人の気持ちが解かったよ」
「全然違う理由だと思うよ。それよりも、私の武器を新しくして欲しいなっ!」
「チタンの棒は結構使い勝手が良いと思うが、何か不満か?」
「出来ればもう少し軽くして欲しいのと、やっぱり先を尖らせて欲しいんだけど」
先端を尖らせる事は出来る。結構簡単な作業だ。だが軽くするのは厳しいな。
俺が武器を作る方法は、核融合だ。材料は空気中の窒素と酸素だ。つまりこれ以上軽い物質は作れない。世界一硬い物質のウルツァイト窒化ホウ素にはホウ素が必要だが、ホウ素は窒素よりも軽い物質だから作る事が出来ない。
武器だからある程度の丈夫さは必須だ。チタンのモース硬度6以上の物質はいくつかあるが、俺が作れるのは単一元素だけだ。モース硬度8以上のクリソベリルはBeAl2O4で元素を3つも使うから作れない。
イリジウム タンタル レニウム タングステンくらいが妥当なのだが、重さがチタンの4倍~5倍になる。とてもじゃ無いが女子高生に扱えるような品物には成らない。
ウルツァイト窒化ホウ素ならチタンよりも軽くて硬いから最適だ。ホウ素を大量に含んだ物を購入してホウ素だけを取り出す事も出来なくは無いのだが、ホウ素が大量に入ってるのは肥料やロボット工学系の素材だ。こんな物を大量に買ったら怪しまれる。
「・・・武器は少し考えさせてくれ」
「うん。期待してるからネ」
もう面倒だから、DPで拳銃とか買った方が良いような気がするが・・・メイに飛び道具は持たせたくない。周りにいる人が危険だ。
「2次試験は実際にダンジョンで戦うらしいぞ。メイは実戦経験無いよな。明日からガンガン鍛えるぞ!」
「カゲちゃんが練習相手なら私……死んじゃうよ」
「我が家のダンジョンにはダンジョンマスターがいるからモンスター出し放題だ!」
DPさえ有れば毛ムクジャラがモンスターを作れる。2次試験まで時間が無いから実戦形式で鍛えた方が効率が良いだろう。
・・・ここが2次試験の会場か。こんなに遠出したのは10年ぶりかな。
ハァ……帰りたい。
「静まれ!これから試験について説明をする。まず、君たちの身の安全は保証出来ない!何が起こるか分からないのがダンジョンだ。不満なら今すぐに帰れ!」
壇上に上がった偉そうな自衛隊員のオッサンが、いきなり帰れと言いだした。ダンジョン内では自己責任が基本だから脅しをかけるのは解かるが、ここまで来て帰る奴なんていないだろう。
そんな事より、俺は片道2時間かけて来てるんだからサッサと始めて欲しい。
「試験は1泊2日だ。受験者は4人1組で行動する事。自衛隊員1人が引率する。組み分けは1次試験合格通知のハガキに記載されてる。質問がある者は引率する隊員に訊け!以上」
担当の自衛隊員に会えなかった質問も出来ないのか。滅茶苦茶な試験だな。
受験者だけで1000人くらい居ないか?この中から3人見付けて引率の自衛隊員と合流するのか。ムリゲーだな。・・・ヒトに酔って気持ち悪くなってきた。もう帰りたい。
「カゲちゃん、やっぱり私と同じ組だ。あと2人探さないとね」
メイが自分のハガキと俺のハガキを見比べていた。そうか3人の内1人は見つかったって事だ。ラッキーだな。
「じゃあメイ。あと2人探してくれ。俺は役に立ちそうにない」
プロの引きこもりの俺に取って、今のこの状況はこの試験最大のピンチだ。
「カゲちゃん、カゲちゃん。自己紹介だよ」
気が付いたら目の前の高校生くらいの男女が居た。どうやら最大のピンチは乗り越えられたようだ。
「俺は我生陰々々。22才、カゲって呼んでくれ」
「みじかっ!もっとテンション上げろよ。一応この中じゃあ一番年上なんだろ?一番ヤル気が無いって、どうなんてんだよ!ダンジョンだぞダンジョン!もっとこう、ガーートだなガーート・・・・・・」
これがイマドキの高校生のノリなのか?俺は高校生になった事が無いからわからないが、面倒臭そうな男だ。
「私は楽丘久、そこで騒がしくしてる楽丘迅の姉よ。姉弟だから苗字ではなく名前で呼んで貰った方が間違いが無くて助かるわ。私はヒサ、あのアホはジンって呼んで」
「ねーちゃん。アホはねーだろ。仮にも初対面の人にそんな説明するなよ」
「初対面なのにアホ丸出しのあんたが悪い。なんでこんなに出来の悪いヤツが弟なんだろう」
「あ、あの。私は黒鉄芽唯伝です。カゲちゃんの従妹です。メイって呼んで下さい」
「YO! メイちゃ~ん。頑張ろうZeeee」
やっぱり、この男はアホだな。こんな騒がしい奴とダンジョンに入って大丈夫だろうか。
アホな男にウンザリしていると、後ろから声をかけられた。服装からして自衛隊員に見える。
「自己紹介は済んだようだな。俺は君たちの試験に引率する臼墨だ。これからの事を簡単に説明する。 我々がダンジョンに入る予定まで、あと……20分ほどだ。 このダンジョンはランダム転移型と呼ばれている。中に入ると第1層のどこかに転移する。1人目が入るとそれから1分間は同じ所に転移するが、時間を越えたら別の場所に転移する。必ず1分以内に全員入り同じ場所に転移するように。 1泊2日で第3層のチェックポイントまで行って帰るのが目的だ。必要な装備は各自用意するように。一応向こうのテントで最低限の武器の貸し出しもしている。 俺はマズイと思った時しか口も手も出さない。攻略に関して一切手を貸すつもりはない。以上だ」
「「「「 はい! 」」」」
なるほど。ダンジョンバトルで物量任せの攻略を防ぐ為にランダム転移か。結構考えるんだな。毛ムクジャラのダンジョンはノーガード戦法だけどな。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無い訳が無い。