表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

-08- 引きこもり と ズル

「うーん。懐かしいと思うにはオカシナ感覚だな」


 俺は中学に入る事無く引きこもりになった。高校の校舎を見て懐かしく感じる事なんて無い。だが10年ぶりに学校という場所に来たのだ、少しは懐かしさを感じるという物だ。

 プロの引きこもりをしてる俺が高校に来た理由は、ここで探索者試験が行われるからだ。現在メイが通ってる高校が会場だった事は、遠出が面倒な俺に取ってはラッキーだった。


「カゲちゃん、10年ぶりの登校だね。でも中学を出てないと高校には入れないんだよ~」


 俺をおちょくってるつもりなのだろう。だがな、それは違うぞ。俺は中学校を卒業してないのではなく、中学校に入学してないのだ!ついでに小学校も卒業してない!

 小学校の卒業前に倒れて、意識が戻った時には中学1年のゴールデンウイークが終わっていた。それっきり学校には通ってないからな。 書類上は勝手に入学して勝手に卒業した事になってるのかも知れないが、興味もないし俺にはどうでも良い事だ。


「問題ない。俺はプロの引きこもりだかな!」


「・・・そんな職業は聞いた事ないよ」


「それよりも、午前が筆記試験で午後から体力測定だろ。ちゃんと勉強はして来たのか?」


「勿論だよ。こう見えて私は一夜漬けに定評があるんだから」


 なんで一夜漬けなんだ。テキストを渡したのは結構前だぞ。

 メイよりも絶対に良い点を取らなければ!一夜漬けに負ける訳にはいかない!


 事前に調べた内容では、筆記試験が4割で体力テストが6割の配点らしい。合格ラインは70点のようなので、筆記試験で30点分正解しないと体力テストがキツくなる計算だ。

 モンスターと戦うのだ、体力に自信が無い者は最初から応募もしてないだろう。だからこそ筆記試験が重要なんだ。



 筆記試験はマークシートだった。問題数は40問で合格ラインを出すには計算がしやすい。

 ただ、誰が考えたのか知らないがマークシートの選択肢が12択だった。合格ラインギリギリの10問を偶然正解する確率は600億分の1だ。勉強しないと絶対に合格しない試験って事だ。

 俺はたぶん35問くらいは正解してるだろう。メイは大丈夫だっただろうか。


「カゲちゃ~ん。私ダメかも・・・最後の5問は問題を読む時間も無かったよ~」


 メイが撃沈したようだ。それでも35問は答えられたんだから、まだ可能性はある。


「あまり気を落とすな。まだ不合格になった訳じゃないんだ。体力テストで挽回できるだろう」


「・・・そうだねぇ。ご飯を沢山食べて午後に備えるよぉ」


 俺は筆記試験はそこそこ点数を取れてると思うから体力テストは手を抜かないとな。トップ合格で目立つと後々面倒な事になりそうだ。



 午後の体力測定は100m走からだ。番号を呼ばれて5人づつ走るようだ。順番を待つ間に、走ってる人のタイムを自分の時計で測ってみたが、多くの人が12秒~14秒くらいだ。

 稀に10秒で走る者もいたが、たぶん短距離走の選手が探索者に転向しただけだろう。

 俺が走る順番が来た。一緒に走るメンバーは・・・全員俺よりも筋肉質で、ザ・スポーツマンの風貌だ。


「用意――」


 ――空砲が鳴る。


 俺は4人から一瞬遅れてスタートした。

 俺にとってスタートはどうでも良いのだ。俺の意識は前方の空間に集中していた。俺が通る瞬間5mmづつ空間をスライスして5mm分の空間を1mmにする。俺が通り過ぎたら元に戻す。

 結果的にみんなは100mを走るが、俺だけは20mしか走らないのだ。足の速い遅いは関係ない。

 周りから見ていたら俺の走り方が異常だと気付くだろうが、ズルをしてる証拠なんか無いのだ。


「うーん。9秒だったか。まぁまぁだな」


「カゲちゃん、ズルした!」


 メイが何処からともなく現れて、俺に一言だけ言って去って行った。

 ふっふっふっ、バレたらズルだが、バレなければ工夫と言うのだよ!まだまだメイは若いな!



 次は体育館で反復横跳びだ。割と俺の得意な種目で助かるな。

 俺は中腰に構えて軽く左右にステップする。足だけを左右にギューーーンと空間ごと伸ばす!

 周りから見ていたら、俺の足が関節とか関係なく伸びるので気持ち悪いだろうが気にしない。


「カゲちゃん、ズルした!」


 ん?またも何かが聞こえたが、気にしない。気にしない。



 次は跳躍力測定だ。今は殆どの学校で行われていないようだが、垂直跳びだ。

 流石にこれは、手を伸ばす訳には行かない。フォームが崩れていたとか片足で跳んだとか、難癖を付けられる可能性があるからだ。

 俺はジャンプした瞬間、計測版を一瞬下にズリ下げた。パンッと計測版を叩いてから元に戻す。

 1回だけなら、計測員の目の錯覚で誤魔化せるだろう。計測版は壊れてる訳では無いから不正でも何でもない。


「カゲちゃん、ズルした!」


 ん?最近、空耳が聞こえるな。気にしない。気にしない。



 次は打撃力測定だ。パンチでもキックでも頭突きでも良いらしい。道具を使わずにマシンに衝撃を与えれば良い、と説明された。

 俺は今まで打撃なんてした事が無い。打撃どころか体を使った攻撃もした事が無い。

 自力だけで行っても良いのだが、運動をした事が無い俺が、全力を出したらケガしそうだ。

 俺は自分の拳がパンチングマシーンに接触する瞬間、マシーン内部の空気を余剰次元に入れた。


 バガッーーーン


 パンチングマシーン全体が内側にへこんで、引きずられるようにパンチを受ける部分も内側に引っ張られた。

 まぁ、数値はそこそこのが出たので、よしとしよう。


「カゲちゃん、ズルした!」


 んーん。幻聴かな?今日は耳鼻科の診察はしてるだろうか。



 体育館での最後のテストは視力と聴力測定だ。

 これは俺の能力を使うまでもない。


「カゲちゃん、ズルしないの?」


「メイ、俺は1度もズルなんてしてないぞ。俺は全力を尽くしただけだ」


「・・・じゃあ、最後の持久力テストは全力出さないで、普通に私と競争しない?」


「フッフッフ。断る!3000mだろ?俺が完走出来る訳無いだろ!」


「それなら棄権してよ。このままじゃカゲちゃんがトップ合格しちゃうよ」


 あっ!思い出した。俺は目立たないように手を抜いて合格しようと思っていたんだ。


 なんか、なんとなく、お腹が痛くなって来たような・・・

 たぶんお腹が痛くなりそうな・・・そんな気がしないでもない。

 良し棄権しよう。


この物語はフィクションです。  

実在の人物・団体・地名とは一切関係が無い訳が無い。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ