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-02- 引きこもり と 残念なお知らせ

 俺の名は我生陰(がしょういん)々々( いかげ)。こんな命名で役所が受理した事が不思議だが、俺が不登校になった原因の1つでもある。引きこもってる俺の生存確認に、時々来る従妹のメイにはカゲちゃんと呼ばれている。

 今は従妹の黒鉄(くろがね)芽唯伝( めいでん)が戻って来るのを待っている。キラキラネーム過ぎてメイデンと呼ばれるのを嫌うので、俺はメイと呼んでる。

 余談だが、メイの名付け親は誰なんだろうな。どう考えてもアイアンメイデンを意識してるだろ。

 メイは早速ダンジョンに入ろうとしたが、セーラー服姿で入らせる訳には行かない。引きこもりをしていても俺は22才だ。そのくらいの常識はある。最低限の準備をさせる為一度帰らせたのだ。


「行ってきたよー!」


 息を乱しながら戻って来た彼女の姿を見て、俺は愕然とした。

 防災用のヘルメットは良い。右手に持ったLED懐中電灯も良い。背中に背負った巨大なズタブクロ?あれは何だ?極めつけは全身ピンク色のツナギ。


「メイ。その背中の袋は何だ?随分年季が入ってるというか、ボロいというか」


「汚れても良い袋が中々無くて、これは農作業用ので60Kg以上入れても破れないんだよ」


「そ、そうか。それで、その服装はどうしたんだ?ダンジョンにはモンスターが居るんだろ?どうして目立つ服にしたんだ」


「これは私の一張羅だよ。お手伝いする時に着るお気に入りなんだ。可愛いでしょ」


 これ以上ツッコんでも無駄だろうな。諦めよう。


「それで、ダンジョンの事は伝えたのか?」


「もちろんだよ!お母さんに言ってたら、夕食までには帰って来なさいって」


 いやっ。そういう意味じゃないだろ。ダンジョンが家に出来たんだ。警察とか、どこかに報告した方が良いのか意見を訊いたつもりだったんだが。

 警察に連絡した所で、一番近い派出所からでも車で30分だ。おまけにあの派出所にはパトカーは無く自転車しかない。連絡を貰った警察官が困るのは目に見えてるから、報告は”今は”しなくても良いか。


「夕食までには帰るけど、怪我だけはするなよ」


「わかったぁ!」


「武器は用意してないのか?素手じゃ危険だぞ。お前の魔法ではモンスターを倒す事も難しいと思う」


「本当はね、包丁を持って来ようとしたんだけどお母さんが夕食作るのに使うからダメだって。だからカゲちゃんに貰おうと思ったんだ」


 最初っから俺を頼るなよ。俺だって料理に使う包丁でモンスターなんて倒したくないぞ!

 第一、武器に出来るような物なんて俺の家に有る訳が無い。だからと言って、庭の木の枝では強度に問題が有るだろうな。

 仕方が無い。作るか・・・


 俺は右手を上げて手のひらに集中した。

 手の先10cmほどの空間が歪み始め、その歪みに空気が徐々に吸い込まれていく。空気が失われるのと同時に、歪みの中から金属の棒が現れだした。

 金属の棒が1mの長さになった所で、俺は空間操作を止めて棒を掴んだ。


「カゲちゃんの、それって凄い魔法だよね。不思議過ぎて意味がわからないよ」


「こんなのは、ただの物理現象だ。空間を操作して疑似的に特異点を発生させ、核融合を行っただけだぞ。事象の地平面のすぐ外側から正のエネルギーと負のエネルギーを取り出して適度に物質を変換させただけ。一言で言えばホーキング放射の応用だ」


「カゲちゃん、カゲちゃん。 ほうキング?って何処の王様なの?」


 俺はガックリと肩を落としながら、今作った金属の棒をメイに渡した。

 素材はチタン、直径2cm長さ1mの棒で先端を少し太くした。重さ1.5Kgでモース硬度6だ。この重さなら女子高生でも扱えるだろう。


「説明した俺が悪かった。今のは忘れてくれ」


「うん。でも棒じゃなくて刀の方が良かったなぁ」


「それは無理だ。刀には鉄だけじゃなくて炭素とかも入ってるんだ。俺が作れるのは1度に1つの元素だけだから、合金は作れない」


「良くわからないけど、作れないのかぁ」


「それじゃあ、出発するぞ ・・・メイ、靴はどうした?」


「あ!玄関に置いて来た。取って来る~」


 ああぁぁ。先が思いやられる。



 ―― コツン、コツン、コツン


 自然の石を組み合わせて作った階段を、1歩1歩確かめるように降りていく。

 俺はダンジョンに入った瞬間から顔を歪めていた。

 空気は淀み、壁から染み出た水が壁や床を湿らせている。一寸先は闇だが、闇の中に『何かが朽ちて』いてもおかしくはない。

 ダンジョンに掃除を求めるのは間違っているだろうか? 掃除をする者が居ないのだから仕方がないか。


「カゲちゃん、私が前を歩こうか?」


 後ろからLEDライトで足元を照らしていたメイが気を使って話しかけて来た。

 普通なら前を歩く者がライトを持つのだろうが、俺の場合は違う。


「ライトを持ったメイより、俺の方がよっぽど遠くまで見渡せてる。もう少しで階段も終わるから気を付けて歩けよ」


「え? あっ、本当だ」


 メイが階段の先に明かりを向けると、灰色の石畳が見えていた。

 延々と階段を降りるようなギミックが無くて一安心だ。


「あまり周りを照らすなよ。色々と見たくない物が見えるぞ」


「あぁ。もう少し早く言って欲しかった」


 階段を降りると、そこは円形の空間が広がっていた。


「まるで闘技場だな」


 俺たちが降りてきた階段と同じような出入口が複数並んでるのが見える。石畳には白骨化したような動物の死骸が複数転がっていた。


「何で死んじゃったのかな?」


「出口が無いからだろ。・・・ホレッ」


 降りてきた階段に向かって拾った小石を投げると、見えない壁に当って小石が弾き返された。

 一方通行でしか通れない、結界術のような仕組みだろうか。


「へ? どうなってるの?」


「残念なお知らせだ。 ・・・夕食には遅れそうだ」


この物語はフィクションです。  

実在の人物・団体・地名とは一切関係が無い訳が無い。


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