4話 スタート
昨日のうちに、部屋を移るなどの諸々の手続きを済ませた。
今日からレイラ様の専属魔法師となる。
支給された魔法師の杖とローブとを身に付けた。ローブの色は、レイラ様に仕えている証である青色だ。
レイラ様は王城ではなく、敷地内にある別棟に住んでいる。
5年前に突然、レイラ様が「ここに住む!」と言い出したらしい。
本当に、突飛な行動が多くて予測がつかないあの方らしい。
与えられた一室を出て、食堂で朝ご飯を食べる。
皆、私を見てくるのに、誰にも声を掛けられない。
何かおかしなところがあるのかしら。あるなら直接、面と向かって言って欲しい。
それとも、つい最近まで王子の婚約者、魔法師になったと思ったら王族の護衛になったから、あまり良い顔をされないだけなのかしら。
ずっとこんな状態で、もし魔法師だけの遠征があったら、一体どうしたら良いのよ。
挫けそうな気持ちでも顔に出さず、黙々と食事を済ませ、レイラ様が住む別棟へと向かう。
道を歩いていると、今度は王城で仕えている人々がジロジロ見てくる。一体どういう気持ちなんだろうか。
10分ほど歩くと、目的地の別棟に到着する。
あれ、ドアの前に誰か立ってる。もしかして…レイラ様?
駆け足で向かうと、やはりレイア様だ。
「リーファ様、待ってたわ」
「レイラ様、私はこれから貴方様に仕える立場ですから、どうぞ呼び捨てにしてくださいませ。もしかして、私は時間を間違えてしまったのでしょうか」
「違うわ。私が楽しみで待ってたのよ。私の護衛は、貴方で2人目だから」
レイラ様が言うや否や、1人の青い騎士服を纏った男が出てくる。
「レイラ、1人で歩き回るなとあれ程…!」
彼は、私を視認した瞬間、素早く剣を抜き私の喉元に突きつける。
「…っ!!」
早い。何の反応も出来なかった。
けど、式典とかで何度か会っているというのに、私を不審者として認識するなんて、少しショック。
「やめて、クリフ。昨日話したでしょう、今日から私の専属魔法師になるリーファよ」
レイラ様が慌てて彼の腕にしがみつく。
未婚の王族がそんな事して大丈夫なのか!と思うが、当の2人は気にしていないようだ。
ようやく私が誰が分かったのか、慌てて剣を納める。
「失礼した、ファムレット元公爵令嬢……私は」
“元”の部分を強調され、何となく言葉に棘を感じる。
「お名前は存じております。ダンヘルタン公爵子息様」
彼の言い方に、私の方も少し刺々しくなっても仕方ないと思う。
ダンヘルタン公爵家次男、クリフ・ダンヘルタン。
ちなみに、この国には公爵家は2つ、いや私の家は潰れたから、もう1つしか無いか。
顔を合わせる機会は何度もあったから、彼の噂は知っている。
剣の実力は騎士団でトップ。火属性を使いこなし、魔力量も並みの魔法師より多い。
まさに「天才」と呼ぶに相応しい人物。だが、性格に難ありとして有名だ。
確かあだ名は…
「烈火の黒獅子」
「おい。俺をその名で呼ぶな」
あ、しまった。口に出てしまっていた。
凄い殺気で、足が、全身が、無意識に震える。
「クーリーフー」
レイラ様が半目でクリフの事を見ている。
「………」
レイラ様の様子を見たクリフは、慌てて殺気が消すと、怒っているレイラ様を必死で宥めている。
何というか、大きい猛獣と猛獣使いみたい。
「ふふっ」
「何がおかしい」
思わず、2人の様子に笑ってしまう。
ジロッとクリフが見てくるが、それさえも何だか面白く思えてしまう。
「いえ、何でもありません」
今までの退屈な王太子妃生活より、よっぽど楽しそう。
こうして、私の専属魔法師としての新たな人生がスタートしたのだった。
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