3話 婚約破棄
婚約破棄当日。
私は久々に綺麗なドレスに袖を通し、私専属となっていた侍女にも久々に会った。
「ふん。クロエ様を殺した報いよ」
「いい気味だわ」
そう言えば、亡くなった隣国の王女の名前は、クロエ様だったな。
クロエ様とは、話した事も無いのに…どうして。
そんな気持ちを押し殺して、押し殺して…
大丈夫。耐えていれば…こんな生活は、もう終わるから。
着替え終わり、コツコツと王城の廊下を真っ直ぐ進む。
途中、何人かの貴族の方とすれ違ったが、皆こちらをチラチラ見て、ヒソヒソと話している。
「やっと来たか」
1番やつれていた時からは少し回復したように見える王子が立っていた。
「お前からやっと解放される。クロエ…僕にはクロエだけなんだ…」
ブツブツと独り言を口にしながら、王子が婚約破棄の紙にサインする。
私は何も言わずに紙にサインをした。
何も不満は思わない。ただやっとこの婚約が終わる事への安堵だけだった。
「この婚約は正式に破棄された。今日をもって2人は他人となる」
国王陛下の言葉を粛々と聞く。
「そして、リーファ嬢。君にはレイラの専属魔法師となってもらう」
「なっ、どういう事ですか、父上。僕は処刑、もしくは国外追放にするようお願いしたのに」
王子は目を見開きながら、国王に抗議する。
私は元公爵家の人間だが、今はただの罪人の娘。
処刑はともかく、国外追放は妥当な判断だ。
それなのに、国王陛下が姫の護衛となることを許可するなんて…
「レイラには今、男の専属護衛騎士が1人しか居ないからな。通常、女性騎士も付けるのだがあやつは要らんと言いよったし…ずっとどうするか悩んでいたが、今回、リーファ嬢を専属にして欲しいとあやつ直々に頼み込んで来たのだよ」
「レイラ姉上は、どうしてこんな女を…父上、姉上のためにもこんな奴は断罪すべきです」
王子は小さい頃から甘やかされて育っているので、このように陛下に抗議している姿を見るのは少なくない。
大体は国王も了承してしまうので、それを助長していたように思うけど。
今回も、国王陛下は王子の意見を優先して、国外追放になるだろう、と思っていた。
「これは、国王である私の決定だ。それと、お前は公爵位を授ける」
………え?
「ど、どういう事ですか、父上」
王子は、今何を言われたのか分からないといった様子で、玉座に近づく。
「次期国王には、第二王女アイーダを指名することにした。お前はクロエ嬢が婚約者の時、姉が嫌がらせしていると分かっていながら、自分は今忙しいからと彼女に構わず。リーファ嬢が婚約者になると、罵倒し、あまつさえ暴力を振るった。そんな状態のお前には、王の座を任せられん」
国王陛下は辛そうなお顔でそう告げた。
よく見ると目のクマは濃く、何日も悩んでいたようだ。
「そんな…父上」
王子は信じられない、そんな、まさか…と言いながらガクッと膝をついて倒れる。
「リーファ嬢、今まで何も手を差し伸べず、すまなかった。レイラを宜しく頼む」
国王陛下が頭を下げた。
一国の王が頭を下げてお願いするなんて、そんな事前代未聞だ。
「へ?…は、はい。承りました」
こうして、私はレイラ様の専属魔法師となったのだった。
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