28話 教皇の忠告
教皇の部屋は、意外と殺風景だった。
でも、ソファや椅子などの調度品は見るものが見れば一級品と分かる。それに側付きの神官が持って来た茶器も前世の基準では最高級品だろう。
「そう身構えずとも良い」
そう言って紅茶を飲む所作はとても美しい。恐らく、高位貴族の出身なのだろう。
だからこそ、気を抜くわけにはいかない。
恐らくだが、私は今、教皇に品定めをされている。
私は、出来る限り優美な所作でカップを口元まで運び、一口飲んで机へと戻す。教皇は、私の一連の動作をジッと観察していたが、私がカップを置くと同時に口を開いた。
「やはり、お前は貴族だな。候補としては悪くない」
その言葉にダニエルと私はピクリと反応したが、リチャードはどういう意味か分かっていないようだ。
王太子の婚約者は、既に決まったと聞いている。
となると、私は7歳年上の第二王子の婚約者候補に名を連ねてもおかしくはない。
王族に名を連ねるということは、あらゆる面で教養が必要だということ。
出身が平民と貴族では、たとえ5歳であっても教養に差が生じてしまうもの。
私の前世は王子の元婚約者。私が培ったものは高位貴族や王族の妻に相応しいものなのだろう。
でも、また王子の婚約者なんてごめんだ。
「私は王子の婚約者候補に名を連ねるつもりなんてない」
思わず低い声でボソッと呟いてしまい、慌てて口を押さえる。しまった、と思うがもう遅い。
それを見ていた教皇はニヤリと笑う。
「ふむ。やはり、食堂でのあれは、幼子の演技か」
ダラダラと冷や汗をかく私を横目に、教皇はもう一口紅茶を飲むと、少し前のめりになって話し出した。
「お前がどう考えていようと、5歳で聖女と見出された時点で、周りはお前を敵として認識するだろう。それに昨日、リチャードの怪我を治したらしいしな」
「はい、それが何か関係あるのでしょうか」
私が首を傾げると、教皇とダニエルが顔を顰める。
「あの怪我は、筆頭聖女でも治せなかったものだ。そもそも、魔法を扱う訓練は11歳から。5歳児で光魔法を扱えるなど、他の聖女に知られれば厄介なことになるだろうな」
教皇の言葉に思考が停止する。
この国で1番強い聖女でも、あんな簡単な治癒と解呪ができないなんて…
光魔法の技術は、どこまで衰退してしまったのか…
呆然としている私に向かって、教皇は淡々と言葉を続けた。
「リチャードとダニエルは平民の出だ。差別するつもりはないが、今後この2人ではお前を守ることができない場面が増えるだろう。2人にもやっかみが絶えなくなるだろうしな」
一度言葉を切ると、教皇はダニエルとリチャードに目をやった。
「お前は聡い。わざとこの2人を専属に据えたのだろうが…力を解放し高位貴族の出の者で周りを固めるか、あるいはその力を完全に封じてしまわねば、お前は命を狙われることになるぞ」
教皇の言葉に、私は頭を殴られたかのような気分になった。
彼の言葉は正しい。
聖女の意識改革を行うため光魔法は使う。でも時期がくれば教会を去る予定のため、教会内で影響力が少ないであろう人物で周りを固めて置こうなど…考えが甘いにも程がある。
「よく考えろよ。中途半端では何も成せないぞ」
教皇の言葉に私は何と言えば良いか分からなかった。
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