27話 教皇の呼び出し
礼拝を終えた私は内心ぐったりしていた。
朝からあんな貴族のようなやり取りを見たのだ。気分も下がるというもの。
だが隙を見せるわけにはいかない。貴族社会では隙を見せた瞬間食われるからだ。5歳児だし、多少のことは許されるんだろうけど、それでも長年の癖は抜けないものだ。
そういえば、朝食も聖騎士は一緒に食べないらしい。確かに昨日食事を摂った時、聖騎士の姿はなかったな。
ほとんどの人が食べ終わって食堂を後にしている。
聖女が朝食を食べ終わったタイミングで、聖騎士が部屋に入ってくるようなのだが、私は5歳児なのでどうしても食べるのに時間がかかってしまう。
既にリチャードが来ているのが見えるが、中へは入って来ない。私がまだ食べ終わっていないからかな。もう見えちゃってるから入ってきても良いんだけど…
もぐもぐしながらそんな事を考えていると、急に目の前に大きな影が現れ、驚いて危うく朝食を喉に詰めそうになる。
「うっ」と呻き声をあげ、自分の胸を叩いていると、横から水を差し出される。コップを奪い取り、中身を勢いよく喉に流し込んでやっと収まった。
「すまない。驚かせるつもりは無かったのだが」
この声、さっきまで聞いていたような…
まさかと思ったが、振り返るとそこには教皇が立っていた。
「きょーこーさま」
とりあえず5歳児っぽく驚いてみせると無表情だった教皇の顔が少しだけ笑ったような気がする。
でも、一瞬で顔が戻ったから見間違えかもしれない。
「その朝食を食べ終わったらダニエルとリチャードと共に私の部屋に来い」
それだけ言うと教皇は食堂を後にした。
え、えっと…私何かしたっけ?
ちょっとやばい感じ??自分の部屋に来い、って言った時の顔やばかったんですけど!
クリフとか騎士団長とかに、何かを問い詰められた時と同じ顔だった。
私何もしてないんですけど!
…いや、でもこういう時は理不尽に怒られるのだ。権力には逆らえない。
今日の朝の礼拝で何か粗相をしたか??でも、他の聖女と同じようにしていた筈だし。
何なら、お祈りの最中に欠伸している人もいる中、私はちゃんとお祈りしてたし。
どうしよう…何が悪かったのか思いつかないから謝罪の言葉も考えられない…
来て2日目で教会を追い出されたくないぞ!いずれ出ていくつもりだが、まだ早すぎる!!
教皇の部屋に行きたくなくて、朝食をチビチビ食べていると見かねたダニエルがやって来た。
「もうお腹いっぱいでしたら、お下げいたしますよ」
「ちがう…きょーこーさまのお部屋に行くの、こわいだけ」
私の様子を見たダニエルはニコッと笑って私に耳打ちしてきた。
「実は昨日、リチャードを専属聖騎士に申請したのですよ。お話とはその事だと思われます」
なんだ…じゃあ私が怒られるんじゃないんだ、私は心を撫で下ろす。
「もうお腹いっぱいだから、この朝ごはん、ごめんなさいしてくれる?」
「…やっぱり」
ダニエルはボソッと呟くと私の分の食器も片付けに向かってくれた。うぅ…残しちゃってごめんなさい。
ダニエルが私の元を離れたタイミングでリチャードが中に入って来た。
「お食事はもうお済みですか?聖女様」
昨日の粗雑さを一切感じさせない動きに、私は内心笑ってしまった。
ダニエルは不器用だけど、リチャードは案外世渡りが上手なタイプなのかもしれない。
ふふっ、と笑って私はぴょん、と椅子から降りる。
「よし、じゃあいこう」
私は気合を入れて教皇の部屋へと向かうのだった。




