24話 エリザベスという聖女(ダニエル視点)
神官が全員並んだところで、正面の扉がギギギと音を立てて開く。遠くてよく見えないが、神官の横にいる小さい影が件の聖女だろう。
彼女はゆっくり歩きながらこちらまでやってくる。扉の近くにいる誰かをすぐ選ぶと思っていた者が多いので、神官達がざわついた。
黄色やオレンジの神官たちの前も通り過ぎ、私達の前までやってくる。
一通り全員を見た後で、入ってきた場所に戻っていくのだろうと思った。
だが、彼女は私の前で立ち止まったのだ。
「こんにちは、お名前なんですか?」
一瞬、自分が声を掛けられていると分からなかった。いや、分かりたくなかった。
「青色神官のダニエルと申します」
あまりにも素っ気ない答え方に隣にいた神官から睨まれたが、これで彼女と今後関わらないようになれば良い。
しかし、私の態度を少女は特に気にする様子もなく、こう言い放ったのだ。「じゃあ、ダニエル様、私付きの神官になって下さい」と。
最悪だ。選んでくれた彼女に申し訳ないが辞退しよう。
彼女の言葉の1秒後にそう判断した。
何せ、私は「 」のためだけにこの教会で神官をやっているのだから。
他の神官が彼女を説得しようとしたが、彼女は引かず、その間、私も暖色系の色を持つ神官に取り囲まれるはめになった。
「君、本気で専属神官になるつもりないよね?」
「私達の方が彼女の専属神官に相応しいとは思わないかね?」
ああ、鬱陶しい。そんなこと言われずとも辞退するつもりだというのに。
「ひとまず、彼女と2人で話してみてはどうかね」
髭をさすりながら教皇がそう仰ったので、私は彼女と話し合う事が決まった。
応接室の一室を借りて、彼女と2人きりになる。
部屋に入りドアを閉めた瞬間、私は口を開けた。
「あの、聖女様。私は」
「私にはエリザベス・ブローシュっていう名前がちゃんとあります」
目をキッとさせて言う彼女にやってしまった、と思った。
ここにいる聖女は、「聖女様」と呼ばれることを好む。つい癖で「聖女様」と呼んでしまったが、この子は嫌だったらしい。
「…エリザベス様。私は平民なのです。あなたの後ろ盾にはなれません」
彼女にそう伝えると、ニンマリと口角が上がった。
何故だろう。この表情…見覚えがある気がする。
気のせいだろうと思い、気を取り直して彼女を説得しようとした。
結果から言えば、折れたのは私の方だ。
「復讐、か…」
復讐と言った彼女の顔は憎悪に満ちていた。
誰に、と聞いたがはぐらかされてしまったが。
しかし、彼女は単じゅ…いや純粋なのだろう。それにまだ5歳だ。
加えてあの治癒能力。間違いなく彼女は教会で一番強い聖女だ。なにせ、あの傷は筆頭聖女にも治せなかったのだから。
既にリチャードは彼女の専属聖騎士になるべく申請書を提出しに行った。明日あたり、教皇から呼び出しがあるだろう。面倒だが、それよりも…
「上手くいけば、あいつを利用できるかもしれねぇな」
口調が変わり、澱んだ目をした彼の姿を誰も見ることはなかった。
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