16話 聖女様
「…う、んん」
どうやら、気を失っていたらしい。目を開けたが、中々焦点が定まらない。
だが、そんな事よりも今は…
私の頭の中に、エリザベス・ブローシュではない、別の記憶があった。誰か別の人の記憶、いやこの記憶は私だ。前世の私の記憶なのだ。私の前世は、リーファ・ファムレットだ。間違いない、全て覚えている。
「…っ、私は生まれ変わった、のか…」
はぁ、とため息をつき、ベットから起き上がる。辺りを見回して絶句した。なんだ、この部屋は。
全ての調度品が、一見しただけでも高価なものだと分かる。しかも、部屋の広さが半端ではない。この部屋はまるで前世の元婚約者、王子の部屋のような…
コンコン、と扉が叩かれる。
「どうぞ」と返事をすると、中に先程の神官が入って来た。
「お目覚めですか、聖女様」
聖女様、だと…それはレイラ様の事だ、と反論しそうになる。だがすぐに、聖女様とは治癒師のことだったな、と思い当たり、喉元まで出かかった言葉をグッと押さえる。
今の教会では、レイラ様のことは「大聖女様」として教会の理念を作った人だとしている。
「私、聖女さまなんですか?」
今までと変わらない、5歳児の口調で神官に問い掛けると、彼は頷いた。
「はい。見たこともないような眩しい光の後、茶色、緑色、白色そして透明の4つの色に綺麗に分かれたのです。ですから、土、風、光、無属性に適性があられるのですよ」
神官は、にこにこしながら話してくれるが、私は話半分で聞いていた。
属性は前世と変わらないらしい。そうなると、おそらく私の魔力量も同じだろう。それにしても「聖女様」か。私からすれば、レイラ様の事だからなぁ。
「聖女様?どうかなさいましたか?」
神官の声で、ハッと現実に引き戻される。
「ううん。何でもない!私、りっぱな聖女さまになれるかな」
「大丈夫ですよ。これから私達と一緒に色んなことについて学んでいきましょうね」
「うん!私、がんばる!」
この演技、めっちゃ疲れる。最後、顔を引き攣らせながら私は答えたのだった。
♢♢♢
「これから、ご家族とは離れて暮らすことになります。だから、今日1日はご家族と共に暮らせる最後の1日になのです」
神官に手を引かれて、歩き続ける。
今日1日は、家族と一緒にここに泊まって良いらしい。
「さあ、こちらにいらしていますよ」
扉が開かれると、そこには父母、姉がいた。
私を見ると、母はこれまで見た事がないような笑みを浮かべた。だが、姉は窓辺に腰掛け、外を見ているだけでこちらを見ようとはしない。今までの私なら、どうしてなのか分からなかっただろう。
だが、今は分かる。母は、子供達に対して平等の愛を与えていなかった。母に似ているかどうか、つまり聖女になれるかどうかでしか考えていなかったのだ。
「待っていたわ、私の愛しい娘」
母の笑顔を冷めた気持ちで見てしまう。
だが、それを悟られないよう小さくため息をついて落ち着いた。
そして、母の元へ笑顔で駆ける。
「お母さま!私、聖女さまになれるんだって!」
私はその日、家族との最後の1日を過ごしたのだった。
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