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第二十三章 郊外キャンプ~準備篇~ 7.解毒剤の用意

 ~Side マーディン教授~


「――これで出来上がりだよ。基本的な毒であればそこそこの……まぁ、中毒の進行を遅らせる程度の効果はある。現時点でネモが作れるのは、これくらいだろう」

「ありがとうございます。材料は確保してありますから、できるだけ数を作って、腕を上げておきます」

「そうしてくれたまえ。それで足りない分は……」

「市販の解毒剤を買い溜めしておきますよ。効果の高いやつを」


 ネモが私のところへ持ち込んだのは、解毒剤についての質問と相談だった。それというのも――



・・・・・・・・



〝キャンプで刺客が襲って来る可能性かね?〟

〝ディオニクスの件を考えると、あり得ない妄想とも言いかねるのでは? 幸か不幸か、奸賊(かんぞく)が狙う相手には事欠かないようですし〟


 ――そうなのだ。ネモの言うように今年の一年生には、叛徒が狙いを付けそうな生徒が複数在籍している。


 まず第一は、王家の第四王子であらせられるジュリアン殿下だ。王家への叛意を示す輩は常に存在しているが、今年入学されたジュリアン殿下は――こういう言い方は不敬に当たるのかもしれぬが――その標的として申し分無い。それなりに警戒厳重な学園を出てのキャンプとなると、奸物(かんぶつ)どもが好餌とばかりに狙ってくる可能性は捨てきれぬ。

 それに加えてアスラン殿下……アスラン殿の存在がある。身分こそ隠しておいでだが、実は隣国ラティメリアから亡命中の第四王子であらせられる。ラティメリアでは先日の政変で、妾腹の第三王子が父王や兄王太子を(しい)(ぎゃく)して王位に就いたばかり。妾腹とは言え王家の血を引く弟君の存在は、新王にとって目の上の瘤の筈。刺客を放つ可能性は充分にある。

 更には、先日明らかになった、イズメイル道場を巡る確執がある。あの時はBクラスのバルトランが狙われたが、今度のキャンプを好機と捉えて、不届きな企みを抱く者が皆無とは言えぬ。――なるほど、ネモでなくても心配になるだろうて。


〝国が重厚な護衛を付けてくれるのならまだしも、これぞ千載一遇の好機、賊どもを(おび)き出して一網打尽に――などと考えるのなら……〟

〝……あまり重厚な護衛では、刺客が手を引く可能性がある。ならば敢えて気付かぬふりをして、護衛の数を抑える選択をする――か〟

〝通り一遍の襲撃であれば、護衛の方々が(おく)れをとられる事は無いでしょう。ただし、第一目標の守りは堅いと見た賊が、一般生徒に狙いを変える可能性は捨てきれません〟

〝一般生徒に?〟

〝はい。一般生徒に被害を出させ、(あたか)も王家の不手際であるかのように……王子たちさえいなければ巻き添えを喰う事も無かったのだと言い立てて、権威の失墜を狙う……刺客たちにはこちらに路線を変更する選択肢も残されています。これでも効果は充分でしょう〟


 ――ネモが描いて見せたのは、学園にとっては悪夢のような可能性だった。


〝……学園の警備陣を動員すれば……〟

〝襲撃を中止させる事は可能でしょうが、それは同時に、賊を一網打尽にする案を退けるという事でもあります。王国上層部がそれを良しとするかどうか。「一網打尽」という言葉に目が(くら)んでいる者は聞く耳を持たず、失敗を懸念している者は、競争相手の失態を狙ってやはり黙殺……というような事が無ければ良いのですが〟

〝……どうすれば……〟

〝襲撃はあるもの――否、阻止できぬものと仮定した上で、被害を最小限に抑える手を打つべきかと。自分に思い付けたのは、解毒剤の手配くらいでした〟

〝解毒剤?〟

〝はい。賊が次善の策として一般生徒に狙いを変えた場合、なるべく多くの被害を出した上で、自分たちの安全と退路を確保する……そう考えるのではないかと。その場合に有効な手立てとなると……〟

〝……毒を使って被害を拡大させ、混乱の隙を()いて脱出する……なるほど、ありそうな話だ〟


 AクラスやBクラスの者であれば、高価な解毒剤や加護付きの防具を手配する事もできるだろう。しかしネモの言うように、敵が被害の拡大だけを図るとすれば、狙われるのは(むし)ろ……


〝ネモ……学園としては、脆弱なCクラス・Dクラスの生徒への手当てを厚くするべきという話になるかもしれん〟


 Aクラス在籍の庶民などという微妙な立ち位置のネモは、貧乏籤(びんぼうくじ)を引く羽目になる公算が大きい。


〝解っています。自分がこちらに伺ったのは、それを見越して解毒薬の作り方を教えて戴こうと思ったからです〟

〝……自作の解毒薬で乗り切るつもりかね?〟

〝市販の解毒剤も買い込むつもりですよ? ただ、襲撃云々を別にしても、キャンプを前にして充分な数が確保できるかどうか……〟


 ……確かに。例年この時期にはポーション類が払底(ふってい)するからな……



・・・・・・・・



 こういう事情で、ネモは解毒剤の作り方を習いに私のところへ来ているわけだが……待てよ……?


「ネモ、君は【収納】持ちだったな?」

「そうですが……?」

「【収納】している物品は、品質の劣化を受けないんだったな? なら、使用期限の迫った見切り品のポーションや解毒剤を、安く購入して確保しておくという手も使えるのではないかね?」

「あ……」


 我ながら……これは名案ではなかろうか。ネモに【収納】させておけば……いや、ネモ以外にマジックバッグも活用すれば……用意できるポーション類の数を段違いに増やす事ができる。

 ……ポーション類の流通や価格に影響しかねんから、常日頃からというのは難しいかもしれんが……今は非常事態だ。


 学園長にも話した上で、急ぎ(くす)()ギルドや冒険者ギルドに話を通さねば……

拙作「転生者は世間知らず」書籍版、5/2発売です。宜しければご笑覧下さい。

活動報告にもう少し詳しい情報をアップしています。

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