第二十三章 郊外キャンプ~準備篇~ 6.武器屋にて(その2)
~Side ネモ~
「いや、ケープって……キャンプに行く格好じゃねぇだろう?」
そうなんだよなぁ……野営にポンチョとかは重宝するけど、あれは飽くまで防寒具や雨具だ。草原ならまだしも林の中だと、下手をすると枝とかに引っかかるのがオチだからな。況して部屋の中で着用するというのは、どう考えても不自然だろう。
「……なんかこう、弾除けの魔法のかけられた防具とか、無いのか?」
「……武器屋じゃ扱ってねぇな。あるとしたら魔道具屋じゃねぇのか?」
「そっちか……。だったら寧ろ、学園で訊いた方が早いか」
「それか、解毒剤を用意しておくかだな」
「なるほど……」
毒への対策は、別途で何か考えた方が良いだろう。そうすると、武器屋で用意できるものは……いや、その前に……
「一つ確認しておきたい。俺みたいな子供が片手剣を提げているのは、不自然だったりしないか?」
「……まぁ、不自然っちゃあ不自然かもしれんが……坊主なら多少鯖を読んでも通るだろ。俺だってギルドから話を聞いてなきゃ、魔導学園初等部の生徒だなんて思わなかっただろうよ」
「……老けて見えるって言いたいのか?」
「ガキにしちゃガタイが良いって言ってんだ。拗ねてんじゃねぇよ」
……釈然としない部分が無いわけじゃないが……とりあえず、目立つ事は無いというのなら朗報だ。
(「いや……目立たねぇって言ってんじゃねぇんだが……」)
「なら、少しばかり体格の良いヒヨっ子が持っていても、不自然じゃない武器というと何がある?」
そう訊ねると、ドルクの親爺は悩み出した。
「……つってもなぁ……片手剣か短剣ぐれぇしか思い付かんが……あとは棍棒か?」
「棍棒か……」
……ふむ。案外悪くないかもしれん。
六尺棒みたいに長いものは論外だし、乳切木や杖も林内や屋内では持て余すかもしれんが、短杖ならどうだ? 内田流など能く知られている流派では九十センチの半棒を使う事が多いが、俺が習ったのはもう少し短かったような気がする。……偶々祖父ちゃん家に短い棒しか無かったという可能性もあるが。
……ともあれ、短杖なら長さ的には片手剣と大差無いだろうし、攻防のバリエーションは剣よりも多彩だ。トンファー――もしくは拐――というのもあるが、あれよりは人目を引かんだろう。
「……いわれてみりゃあ……それもそうか……」
ドルクに相談すると唸り声を上げていたが、適当な材を物色して試作してくれる事になった。その他に相談しておくべきなのは……
「……飛礫だぁ? そんなもん、石ころでも抱えてりゃいいだろうが」
「ただの石ころよりは使い易いものが欲しい。そういうのは無いのか?」
「……投擲武器ってんなら、投げナイフとかじゃ駄目なのか?」
投げナイフは俺も普通に使ってるし、役に立つ技術なのは間違い無い。ただ――今回は威力よりも、即応性や操作性が必要になりそうなんだよな。
「投げナイフも悪くはないが……俺が欲しいのは、咄嗟の場合に投げて牽制できるもんだ。ナイフだと、二つ三つを適当に鷲掴みにして投げる――ってわけにゃいかんからな」
「おぉ……なるほどな……」
「その上で、ある程度の打撃力がある方が良い。言い換えると、大きさの割に重さがあるものだな。そうなると、そこらの石ってわけにゃいかんだろうが」
「……鉄の飛礫か……。形の注文はあるか?」
「あぁ、できたら正四面体にしてくれ。角が当たるとそこそこ痛いが、素手で掴んだくらいじゃ傷付かんように」
「ほぉ……面白ぇ注文だな。解った、そいつも作っとく」
自分でも妙な注文を出したと思うが、文句も言わずに作ってくれるみたいだな。……なら、もう一つ我が儘を言ってみるか。
「――あ? 随分と妙なナイフだな。柄が斜めに付いてんのか?」
「ククリっていってな、刃先が曲がって付いてる事で、藪を切り払い易くなってるんだ」
――正確にはククリ擬きってところだけどな。
「能く解らんが……そうなのか? ……まぁ、それが注文だってんなら造ってやらぁ。ただ、こっちの方はちっと時間を貰うぞ?」
「あぁ。短杖と飛礫の方を先にしてくれ。何だったらナイフの方は、キャンプに間に合わなくても構わない」
「……ま、ちっと厳しいが……何とかやってみるわ」
「宜しく頼む」
拙作「転生者は世間知らず」書籍版の書影が公開されました。ご関心がおありの向きは、当該作の「書籍化のお報せ」をご覧下さい。……ここに貼るのも場違いに思えますので。