第二十三章 郊外キャンプ~準備篇~ 5.武器屋にて(その1)
~Side ネモ~
ミュレルさんから教えられた店に来てみたら、
「……こないだショートソードを買っていった坊主だったな。刃毀れでもしたのか?」
おぉぅ……一度来ただけなのに憶えてんのか。無愛想に見えるけど、意外と遣り手なのかもしれんな。こんな見かけによらず、きめ細かい接客が得意だとか。
「あぁ? ……お前みてぇな目つきの悪い小僧、忘れようったって忘れられるもんかよ」
……訂正。見かけどおりの無礼な親爺だ。
「別に刃毀れしたわけじゃない。そもそも使う機会が無かったからな。今日来たのは別の理由だ」
そう言って、ここへ来た理由を説明する。
刺客の襲撃云々はさすがに口にできないから、良いとこの坊ちゃん嬢ちゃんがキャンプに行く――盗賊からすれば、カモがネギ背負って来るのと同じ――のを狙われる可能性と、それに巻き込まれるのを避けたいとだけ言っておく。
丁寧語を使うのも止めておいた。冒険者相手に丁寧語を使うと、妙な顔をされる事が多いからな。そもそも、この親爺の物言いからして失礼なんだ。こっちが下手に出る必要は無いだろう。
「そんな大事なガk……お子様方なら、相応の護衛ってやつが付くんじゃねぇのか?」
「そんな護衛さんたちは、庶民の小倅の事まで守っちゃくれんだろう。自分の身は自分で守るしか無いんだよ」
――なるほど、というように考え込んだ親爺。こっちの立場ってやつが解ったか。
「……森ん中と家ん中を見越した武器か。ショートソードだけじゃ不足か」
「長剣にも短剣にも対応できる――と言えば聞こえは良いが、逆に言えば中途半端な間合いだからな。追加の武器が欲しいというのもあるが、それより盗賊どもがどんな武器を持ち出すのか、それを知りたいってのもある」
それが判らんと、こっちとしても対策の立てようが無い。そう言ってやったら――
「破落戸どもの得物か……あんまり凝ったものを持ってるやつぁいねぇな。入手と手入れの事も考えて、在り来たりの片手剣か弓に短剣……短めの手槍ってとこだな」
「メイスや斧は無しか?」
「賊としちゃ、必ずしも致命傷を与える必要は無いからな。傷を負わせて怯ませられりゃ御の字だ。抵抗力さえ奪えば充分なんだからな」
なるほど……
「だから下手に手向かったりせずに、逃げ廻ってる方が無難なんだが……坊主ほどの腕がありゃあ、そういうわけにもいかんのだろうな」
「……俺が何だと?」
「武闘会で剛剣アレンとやり合ってたなぁ坊主だろう?」
……嫌な方向に憶えられてるな。
「ま、実戦の可能性があって、下手に目立ちたくねぇってんなら、武器じゃなくて防具を誂える手もあるな」
「防具か……」
――なるほど。
前世じゃボディアーマーやプロテクターの実物なんか見た事も無かったから、完全に意識から外れていたな。見習いとして冒険者登録してはいるが、実際に外に出る事はほとんど無いからなぁ……。簡単な革鎧しか持ってなかったよ。ここは一つ、防弾・防刃性の高いものを誂えるか。
武器屋の親爺――ドルクというそうだ――と相談して、手頃なやつを見繕ってもらった。ここで強力な魔獣の素材なんか持ち込んだら、ラノベの主人公みたいで格好良いんだが……生憎と、俺はそんな素材は持っちゃいない。……ディオニクスも買い上げられたしな。なので出来合いを選んでもらったんだが、そんじょそこらの片手剣ぐらいは防げるそうだ。
あとは……
「遠距離もしくは中距離からの攻撃への対策が欲しい」
「あ? 弓とか魔法とかか?」
まぁ、普通はそっちを考えるだろうが……俺が心配しているのとは少し違う。
「魔法への対策はこっちで考える。これでも魔導学園の生徒だからな。知恵を貸してほしいのは、毒矢とか毒塗りの投げナイフへの対策だ」
確かゲームの展開では、毒を塗った投げナイフが使われていた筈だ。革鎧だけじゃ心細い。俺自身は【状態異常耐性】のスキルを持っているが、現段階でこれがどれだけの効果を持つのかが判らんし、俺以外のクラスメイトがやられる事も考えておく必要があるだろう。投げナイフの貫通力はそれほど高くない筈だから、学園支給のマントかケープのようなものでも充分かもしれんが……
拙作「ぼくたちのマヨヒガ」、更新しています。宜しければこちらもご笑覧下さい。