第二十三章 郊外キャンプ~準備篇~ 4.冒険者ギルドにて
後書きにお報せがあります。
~Side ネモ~
この世界がゲームと同じ流れを辿っているのかどうか、この頃じゃ自信が無くなってきたんだが……襲撃イベントに関して言えば、あると考えて準備しておいた方が良さそうだな。無駄になったところで、取り越し苦労を笑う程度だが……本当に襲撃があった場合、準備不足で死人が出たなんて事になったら目も当てられん。一応、クラスの連中の甘い想定はひっくり返しておいたが……俺の武装についても再検討しておくか。
その前に……こちらの世界の現実が一応ゲームの流れに従うと仮定して、襲撃イベントの内容を整理しておこう。
ゲームでは、確かイベントの結果がバッドエンドに直結する事は無かった筈だ。襲撃自体は生徒たちで何とか対処できていた。被害の大小が違っていただけだ。
つまり……襲って来るであろう刺客は、それほどの手練れではないって事か? だったら、奇襲さえ受けなければ何とかなるかもしれん。こっちは奇襲の事を知っている上に、【眼力】って鬼札もあるわけだしな。先手を取れればやりようはあるか。……だったら……
「……どんな得物を用意するかって事になるんだよな……」
「ネモ君、何か言いましたか?」
おっと、口に出ていたか。業務中なんだから、余計な事を口走らないようにしなくちゃな。
「あぁすみません、もうすぐ学園でキャンプ実習があるんですけど、その時にどんな道具や武器を持っていくべきかと考えていて……」
「あぁ、そういえばそんな事を言ってましたね。……ふむ……キャンプという事は、生徒たちで野営をするんですか?」
王都冒険者ギルドのサブマスターという立場からか、ミュレルさんは興味があるみたいだが……
「あ、いえ。そこまで本格的なもんじゃないみたいで、学園が管理している小屋に宿泊するみたいです。まぁ、お泊まり体験学習ってところですね」
「体験学習ねぇ……自炊と雑魚寝の実体験に、簡単な野外学習というところですか?」
「話を聞いた限りだと、大体はそんなもんじゃないかと。だったら、そこまで凝った道具は要らないだろうと言われそうですが……」
春にあった野外実習でディオニクスが出た事は一般には伏せられているが、王都ギルドのサブマスであるミュレルさんは承知している。なので、俺の懸念についても理解してくれたようだ。
「なるほど……ネモ君はともかく他のお子様方は、条件の違いなんか考えもせずに、武器や道具を持ってきそうですね。……森の中とか――屋内とか」
おぉ……さすがに王都ギルドのサブマスは違うな。あれだけの話から、山小屋に刺客が襲って来る可能性まで考えたか。それに……坊ちゃん嬢ちゃんが森林戦や屋内戦を考慮していないだろうってのは、正直俺も考慮してなかった。……下手をすると足手纏いになるかもしれんな。
クラス担任のアーウィン先生は、そこまで本格的なキャンプじゃないから気楽にしてろってスタンスだし。生徒をリラックスさせようとしてるんだろうが、ゲームの流れどおりに現実が進むんなら、実際に襲撃がある筈だ。国の上層部には別の思惑があるのかもしれんが、俺としちゃ不意を打たれるのだけは避けたいから、クラスの連中にもそれとなく注意はしておいたんだが……
エルには万一の場合に備えておけと言っておいたが、黙って頷いていたから大丈夫だろう。ただ……敵の狙いがアスランでなかった場合、エルがアスランの傍を離れてまで迎撃に廻るとは思えん。
……自衛用の武器だけでなく、何か牽制用の道具も必要か……
「ネモ君は何を持っていくつもりなんですか? ……今回もあの棒を?」
俺が考え込んでいると、ミュレルさんがそう問いかけてきた。
「いえ、今回は長柄の武器は取り回しが難しそうですし」
林内にしろ屋内にしろ、長物を振り回すのに向いた場所とは言えんだろう。鎖鎌だって条件は同じだ。となると、近接武器という事になるが……
「ネモ君は棒以外の武器も遣えるんですか?」
「真似事程度ですけどね」
前世の祖父ちゃんと祖母ちゃんからは、手ほどき程度だが古武術を教わっていた。道場対抗戦でお披露目した乳切木もその一つだが、近接武器だって習わなかったわけじゃない。【護身術】なんてスキルが生えたのは伊達じゃないんだ。
ただ……プロの刺客相手に、最初から接近戦を挑むというのもなぁ。それにそもそも、十手とか手甲鉤とか、こっちにあるのか? 無かったら注文して造ってもらわなきゃならんが、そんな時間余裕があるかどうか。乾坤圏だの鉤だのジャマダハルだのに至っては論外だろう。隠し武器みたいなのはあると便利だろうが……
う~んと考え込んだ俺を見かねたミュレルさんが、冒険者ギルド御用達の武器屋を紹介してくれた。――てか、前に教えてくれた店だよな。ショートソードを購入した。今日は早く上がっていいから、そこで得物を見繕っておくようにと言ってくれた。――うん、好い人だ。
【お報せ】拙作「転生者は世間知らず」が書籍化される運びとなりました。詳細は後日ご報告させて戴きます。