第二十三章 郊外キャンプ~準備篇~ 2.用心(その1)
~Side ネモ~
どうやら今後も実習の時は、基本この面子で動く事になるらしい。何か貧乏籤を引かされたような気もするが……
まぁそれはいいとして、班分けは決まったんだが、現時点で実習班として動く事は特に無い。準備は各人自前でやるんだそうだ。
「と言うか、何が必要なのかを自分たちで考えさせるのも、実習の一環という事らしい」
訳知り顔で説明してくれるのはコンラート。早手廻しに情報を集めたようだ。この手の事は得意なんだな。中々役に立つやつだ。
「……いや……残念ながら、探り出せたのはここまでだ。実習の一環という建前から、上級生やOBからのアドバイスは禁止されているらしくてな。……まぁ、一部の貴族などではこっそりと経験者に訊く事もあるようだが……ウチは違うと父親から釘を刺されたよ」
「実習ねぇ……ポカやって準備できなかったやつはどうするんだ? 食器や寝具無しでのキャンプってのは、お貴族様にはきつそうだが」
ま、それくらいしなきゃ身には着かんかと思っていたら、そういう場合は学園側が用意しているものを貸してくれるそうだ。ただし減点になるとの事。ちなみに、テントではなくバンガローでの宿泊になる。……キャンプっていうより、お泊まり学習って感じだな。
「それはそうですわよ、ネモさん。上級生ならともかく私たち一年生に、いきなり本格的なキャンプなんか、できるわけありませんもの」
……そう言われれば、そうか。
「ですから、キャンプの場所も安全なところを選んであるのですわ」
……安全ねぇ。俺の前世の記憶によれば、その安全な筈の場所で、刺客に襲われるっていう厄介イベントが発生する筈なんだがな。
とは言っても、この世界がゲームの流れを踏襲しているという保証があるわけじゃない。当のゲームにしても、確か何事も起こらないというルートも――低確率で――あった筈だ。ま、警告だけはしておくか。
「そうは言うがな、お嬢。同じように危険の無い筈の実習地に、ディオニクスが出たのを忘れたわけじゃあるまい?」
――そう言ってやると、クラスの全員が考え込んだ。
「確かに……無条件で安心するのは考えものですわね……」
「あのディオニクスについては、特務騎士団が色々と調べていたが、まだはっきりした事は判っていないようだ」
……特務騎士団ってのはゲームに出てこなかったような気がするが……王国の特殊部隊みたいなもんか? それとも、武装警察みたいなもんなのか?
「つまり……?」
コンラートの発言を受けて、焦れったそうにエルが結論を要求していたので、俺の方から答を言ってやる事にする。
「――つまり、犯人はまだどこかに潜伏して、同じような事を目論んでいる可能性は高いってこった」
そう言ってやると、さすがにクラス全員の表情が厳しくなった。
……俺の発言のせいでお泊まり会が中止――なんて事にならんだろうな?
「中止はあり得ませんわよ、ネモさん」
「そうだな。そんな真似をしたら学園が、延いては王国が賊徒に屈した事になる。王国の尊厳にかけても中止は無い」
「……俺としちゃあ、王国の尊厳より我が身の安全が大事なんだが……」
巻き添え喰って怪我でもしたら、割に合わんのだがな。
「まぁ、奸賊が確実にキャンプを狙ってくるとは限らないし」
「そうだね。警戒の厳重さに辟易して、手を出さないって事もあるだろうね」
いや、フォースにアスラン、生憎だが襲撃はあると思うぞ。……少なくとも、ゲームでは襲撃イベントがあったからな。それというのも……
「けどなフォース、警戒を厳重にすれば襲撃は未然に阻止できるかもしれんが、その一方で犯人を誘き寄せて捕らえる事はできんぞ? そう主張する者もいるんじゃないのか?」
ゲームではその意見が通って護衛の数は少なめに抑え、代わりに精鋭を派遣するという方針になった筈だ。けど、幾ら精鋭でも、少数では監視態勢が甘くなるのは避けられないからな。そこを衝かれて侵入される――って設定だった。
そう言ってやると……
「……確かに、そういう意見もあると聞いた」
「そうなると……大勢を動員する代わりに、少数精鋭で迎え撃つ――って事になるわけか?」
「断言はできないが、その可能性は高い」
「待てよマヴェル。そうすると……僕たちの実家から護衛を出すのも……?」
「好ましくないとして却下されるかもしれないな」
エリックのやつが気付いたらしくコンラートを問い詰めてるが……多分、コンラートの言うとおりになるだろう。――てか、少なくともゲームではそうなっていた。
で……コンラートの発言を聞いた生徒たちが慌て出したか。他人任せにしてられる状況じゃないって気付いたようだな。
「……ネモ、こういう場合、僕たちはどんな準備をするべきなんだ?」
……おぃエリック、面倒なネタを振ってくるんじゃねぇよ。