第二十三章 郊外キャンプ~準備篇~ 1.班分け
第三部最大のイベントの始まりです。
~Side ネモ~
長いようで短かった夏休みも終わり、クラスメイトたちと互いに久闊を叙した後は、学園での日常が戻って来た。……まぁ、再会早々にお嬢から米の備蓄――まだ収穫期が来ていないだろうが。何考えてんだ、お嬢――を訊ねられたり、課題が終わっていないと騒いでいたエリックのやつをどやしつけた後で手伝ってやったりと、後日談的な出来事は幾つかあったけどな。
ともあれ、夏休みを終えた後は平常どおりの生活が戻ってくるもんだと思っていたんだが……
「いやいやネモ、まだキャンプという大ネタが残ってるだろ?」
エリックのやつが――なぜか得意気に――話しているのは、二学期早々に予定されているキャンプの事だろう。何でまたこの時期にと思ったんだが、何でも学園の創立者だか二代目だかが、〝夏休みでだらけた生徒に、集団生活の何たるかを叩き込む!〟――とか言い出して以来の伝統らしい。……肝心の生徒の方は、夏休みの第二部みたいに思ってるみたいだけどな。
……で、問題はこのキャンプなんだが……実は「プレリュード」の一年生篇で、最大のトラブルイベントであったりする。
俺が憶えているところでは、アスランもしくはジュリアンへの刺客が送り込まれてきて、A~Dの各クラスが団結して撃退するという展開が待っている筈だ。誰が狙われるのか、何者から狙われるのかは、それまでのゲームの流れ次第。確かプレイヤーの所属しているクラスによって、生起するイベント内容が違っていた筈だ。展開次第でキャラが負傷したり、場合によっては死んだりする事もあるという凶悪な仕様が話題になっていた。
しかも……死者が出るのってAクラスなんだよ! ゲームではフレーバーテキストでサクッと触れられていただけ……って、死ぬのは俺みたいなモブって事じゃねぇか! そんなヤバい展開認められるかぁっっっ!!
……ともあれだ、平穏無事な学園生活を望む俺としては、そんな危機的状況に陥りたくはない。キーパーソンである主役組から距離を取るのが上策なんだが、現状それは難しい。かと言って、このまま放って置けば巻き込まれるのは必至だ。なら、残された方法は一つしかない。則ち……イベント自体を潰す! これしか無い!
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「……で、相も変わらずの面子が集まるわけだな」
「校外実習の時の班を、そのまま流用するみたいだね」
あぁ……予想は付いていたともさ。
「……敢えて聞くが……この中にキャンプの経験のある者は? ……エルを除いてだが」
そう訊くと、皆柔やかに首を左右に振りやがった。ちくせう。
「……お嬢とフォースは仕方ないとしても……おぃマヴェル、末はフォースの副官だろうってお前まで知らんのか」
「末はともかく、今はただの子供に過ぎないからな。今回のキャンプがその実習になるわけだ。学園で習う事が判っているのに、態々予習するとでも?」
……言われてみればそうか……
「すると、経験者はエル一人だけか……」
「いや、ネモ。水を差すようで悪いが、俺が知っているのは故郷での野営の遣り方だけだ。この国の遣り方は知らんぞ?」
あぁ……そりゃそうか……。という事は……
「全員お荷物決定かよ……」
そう呟いたところ、コンラートのやつが心外とばかりに反駁してきた。
「いや、ネモ。お荷物はないだろう。他の生徒たちも似たり寄ったりの筈だぞ?」
「そりゃそうなんだがな。……マヴェル、仮令一人でも野営の経験者がいる班に、先生方が懇切丁寧な指導をしてくれると思うか?」
そう言ってやると、コンラートのやつは暫く考えていたが……やがて決まり悪そうな表情で首を振った。……そうだろう。俺という経験者がいる時点で、この班の指導は俺に振られるのが目に見えているんだよ。完全に放置はされないだろうけどな。
「ま、王族であるフォースや他国の貴族であるリンドロームもいるわけだから、完全に無視って事はないと思うが……」
ゲームの展開からして隠し護衛とかは付く筈だが……キャンプの準備まで手伝ってもらうわけにもなぁ……一応は授業の一環って事なんだろうし。
「はぁ……仕方ねぇ。できる範囲で俺が面倒見るか……」
「宜しく頼む――と言いたいところだが、ネモはキャンプの経験はあるのか?」
「キャンプってより野営だな。猟師さんたちの手伝いをして山に入った事なら何度かあるし、そもそも春に王都に来たのも歩いてだしな。野宿の仕方くらいは心得てるぞ」
そう言ってやると全員が驚いていた。止ん事無き方々には、子供が一人で野宿するなんて思いもよらなかったようだな。ふぅんという感じで頷いていたのはエルだけだ。
「ま、聞いた話だと、野宿って事は無さそうだしな。そこまで面倒な事にゃならんだろ」
……本音を言えば、刺客が襲って来るのが一番の面倒事なんだがな!