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眼力無双~目つきで苦労する異世界転生。平穏なモブ生活への道は遠く~  作者: 唖鳴蝉
第一部 一年生一学期~裏腹な新生活の始まり~
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第二章 巻き直しの新生活 2.目撃者

 ~No-Side~


「もう一度言ってくれるかい? コンラート」

「はい。ネモという少年には、何やら得体の知れぬところがあります。殿下に害意を抱いているかどうかは別としても、注意を払っておかれるべきかと」



 オルラント王国王立魔導学園の学生寮の一室で、オルラント王国の第四王子ジュリアン・デュ・オルラントは、従者であるコンラート・マヴェルからの報告を受けていた。



「……急にそんな事を言い出すところをみると、君にそう言わせるだけの何かが起きたんだね? 説明してくれるかい?」

「はい。先程ネモ少年の部屋の前を偶々(たまたま)通りがかったところ、一瞬だけですが中から恐ろしいほどの魔力の(ほとばし)りを感じました。……いえ、恐ろしいというのは魔力量だけではなく……何と言いますか……どこか異質な禍々(まがまが)しさを持った魔力でした」



 コンラート・マヴェル。現宰相の孫に当たり、本人も末は宰相を嘱望されるほどの才人でありながら、自ら望んで第四王子ジュリアンの従者となった少年である。慎重な性格で、不確実な情報から軽率な判断をする事を嫌うが、巧遅よりも拙速という時には果断な決定を下す事もできる。

 そんな彼が、「()く判らないが」と前置きした上で、ネモという少年に注意すべきと警告する。その意味が解らないほど、ジュリアンは愚かではなかった。



「得体の知れない魔力か……中で何があったのかは、君の事だから確かめたんだろうね?」

「ドアが開け放しになっていましたから。どうやらカイズという生徒がネモの食糧を盗み食いしたようで、ネモはそれを咎めたようです」

「……は?」



 説明を受けたジュリアンは微妙な表情を禁じ得なかった。

 盗み食いをする方もする方なら、盗み食いごときに腹を立てて魔力を放つ方も放つ方ではないか?



「いえ……それがどうも、食べられたのはネモの弟妹が持たせてくれた心尽くしの食糧であったようで……カイズの馬鹿はそれを盗み食いした上に、貧相だとか罵ったそうです」

「そりゃ……僕でも怒るな」

「えぇ。ここまでの話であれば、ネモに咎められる筋合いはありません。問題なのは、ネモの怒りを受けてカイズが卒倒した事です」

「……は?」



 仮にも王子たる者が漏らすコメントではないと思いつつ、続けて妙な声が出るのを抑えられない。単にカイズが情け無いだけではないのか?



「先程申し上げましたように、一瞬ではありましたが魔力の放出を感じました。それを考えると【威圧】か何かのスキルを持っているようにも思えますが……」

「ネモ君は確かユニークスキルホルダーの候補者だったね。彼のスキルという事じゃないの?」

「【威圧】はユニークスキルではありません。それに、つい先日実施された彼の能力鑑定の結果にも、【威圧】持ちだとは書いてありません」



 淡々と述べたコンラートに、ジュリアン王子がしばらく経ってから言葉を返す。



「……つまり……ネモ君は何か妙なスキルを持っていて、それを隠している可能性がある?」

「現状ではその可能性を棄却できません。(もっと)も……」



 ここで初めてコンラートは逡巡(しゅんじゅん)した様子を見せる。彼にしては珍しい事であった。



「――(もっと)も? 続きを言ってくれないか?」

「その……立腹したネモの顔付きが度外れて恐ろしかったとか……そういう可能性は捨て切れませんが……」



 ――正解である。

 ……あるのだが……しかし……



「……幾ら何でも……そりゃないだろう」

「はぁ……学生とは言え、一応はカイズも魔術師の候補者であった筈です。その程度の事で卒倒するとは思えません。……思えませんが……偶々(たまたま)カイズがノミのような心臓の持ち主であった可能性もありますし……」

「う~ん……」



 微妙な顔付きで考え込んだ主従二人であったが、やがてジュリアンが一つの可能性を挙げる。



「ネモ君が偽装系のスキルを持っていて、そのスキルで【威圧】を隠していたという可能性は? 冒険者なんかは、切り札となるスキルを隠す事も多いんだろう?」



 充分に説得力のある説明――ついでに真相――であったが、コンラートは首を振ってそれを否定する。



「お忘れですか? 学園の鑑定水晶は王宮にあるのと同クラスのものです。王族や貴族の子弟が通う事も多いので、暗殺者を排除するために、王国でも最高の能力を持つ水晶球が備えてあります。人間業では……それこそ神々でもなければ、ここの鑑定水晶を欺く事などできません」



 実際にはその「神の偽装スキル」によって、ネモは自身のステータスを偽っているのだが……そこまで突飛な発想は、健全な思想の持ち主である主従二人の頭には浮かんでこないのであった。

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