第二十二章 ウォルティナの町にて 1.別れと再会
~Side ネモ~
「じゃあ、行ってくるよ」
「あぁ、身体に気をつけてな」
「無茶しないのよ?」
「「…………」」
「ほら、あんたたちも、いつまでも膨れっ面してないで、ちゃんとお見送りしなさい」
父さん母さんに祖父ちゃん祖母ちゃんはちゃんと送り出してくれたんだが、弟と妹は不機嫌そうに黙ったままだ。……と言うか、泣くのを堪えてんだろうな。
弟妹たちを悲しませるのは俺としても不本意だが、さすがにそろそろタイムリミットだ。二学期が始まるまでに学園に戻らないといけないからな。
「ネロ、ネイラ、冬は帰って来れないけど、手紙は書くからな。来年の春にまた帰って来るから、それまでに課題をしっかりとやっておけよ?」
「「…………うん……」」
不承々々という感じだが、どうにか納得してくれたようだ。
「父さん……ゼハンお祖父ちゃんによろしく言っておいてね」
「あぁ、解ってる。俺がいない間も、色々と気を遣ってくれたみたいだからね」
ネロやネイラが色々と良くしてもらったみたいだ。まぁ、ゼハン祖父ちゃんからすれば孫なんだから、当たり前と言えなくも無いんだがな。
「悪いけど魔獣の内臓とかは、できるだけネロとネイラに廻してくれよ。あいつらは育ち盛りだし、魔力とかの伸びにも関わってくると思うから」
「解ってるわよ」
仕留めたバイコーンベア(大)の内臓や肉は、マジックバッグに入れて渡してある。他にも大水蛇の肉とか、道々俺が狩ってきた魔獣の分もあるし、少しずつ使えば春まで保つんじゃなかろうか。……まぁ、無くなりそうだったら連絡してくれとは言ってある。試験中の缶詰……じゃなくて瓶詰めが上手くいくようなら、それを送ればいいだけだからな。何なら魔力水という手だってあるわけだし。
「ネモ、そろそろ行かんと間に合わんぞ?」
「あぁ……じゃ、行ってくる」
「気をつけてな」
ゼハン祖父ちゃんの住まう領都――王家直轄領ウォルトレーンの代官府所在地――ウォルティナは、陸路なら村からそこそこの距離があるが、川舟を使えばもっと早く着ける。ウォルティナに向かう舟便は多いので、適当なのに乗せてもらえばいいわけだ。その船便が出る時間が迫ってきたので、俺は家族に別れを告げて道を急いだ。
・・・・・・・・
「ふん、漸く来おったか、薄情者めが」
半年ぶりに会ったゼハン祖父ちゃんの第一声がこれだよ。
「ご挨拶だな、祖父ちゃん。王都からはるばる三百k以上を訪ねてやって来た、可愛い孫にかける第一声がそれか?」
kっていうのは距離の単位で、前世地球のキロメートルに相当する。ちなみに、メートルに相当するのはmだが、何でも〝当時の王様だか誰かの心臓が一回脈を打つ間に、一方向に(つまり半周期)振れる振り子の長さ〟として定義され、これから逆に一秒の長さが再定義されたんだそうだ。
で、王都から故郷のリット村までの道程が大体二百七十k、リット村からここウォルティナまでが五十kだから、計算上は間違っちゃいない。
「何を言うか。実家から帰る間際になって申し訳程度に顔を出すような孫が、薄情者以外の何だと?」
まぁ、それも間違っちゃいないわけだが。
「ふん、独り寂しい王都暮らしに耐えかねて、何かおねだりでも言ってくるかと待っておれば……全く可愛げの無い孫だ」
いや、そこは〝手の掛からない孫だ〟――とか言うべきじゃないのか?