第二十一章 肉獲り物語 1.怪獣?大決戦 あるいは漁夫の利
~Side ネモ~
さて、帰省の途中で少しは狩っておいたとは言っても、蛋白源は少しでも多い方が良い。ネロとネイラの成長の事を考えると、できれば魔獣の肉を確保しておきたい。実家用のマジックバッグもあるし……とは言え、これも大っぴらにはしない方が良いか。
当座食べる分としては、大水蛇の肉がある。ギルド長からは〝討伐証明として頭だけ提出したら、残りは好きにしろ〟――って言われてるし、皮と内臓は皮革ギルドと魔導ギルド・薬師ギルドから提供を求められてるが、肉については何も言われてないからな。……まぁ、大水蛇の肉はそのままじゃ大味で美味くないから、干して旨味を濃縮させる必要があるんだが……そこまでやってるのは実家くらいだ。
ただまぁ家族全員で食べれば、これも長くは保たないよな。肉の追加は決定なんだが……
「ふむ……そう言えば……塩川の上手の辺りに、バイコーンベアが出たとか聞いたな」
祖父ちゃんが耳寄りな話を聞かせてくれた。塩川の上手というと……タイダル湖に注いでいる辺りか。あ、ちなみに塩川っていうのは、岩塩地帯を貫流して塩分濃度が高くなってる川の事な。村の東側には淡水の川もあって、こっちは水川って呼ばれている。正式名称とかは知らん。村じゃ塩川と水川で通じるからな。
しかし熊公か……図体がでかい分、食いではありそうだな。熊なら皮も内臓も自家用で消費できそうだし。いっちょ、狩ってくるか。
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――というわけでやって来たんだが……何だ、ありゃ?
……馬鹿でっかい熊公と猪の群れがやり合ってるみたいだが……
猪の群れの方は、確かハーディボアってやつだ。雄雌ともに群れで行動する習性を持つ猪で、魔獣じゃなくて普通の獣だ。熊公の方は……バイコーンベア……だよな?
……普通の五割増サイズに見えるんだが……
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~No-Side~
蛋白源の補給にやってきたところで、思いがけなくも魔獣と野獣の争いの現場を目にする事になったネモは、どうしたものかと暫し思案に沈んだ。
熊系の魔獣も猪も、何れも狩った事はあるが、それは一頭だけを相手にした時だ。熊と猪が争っている場面に割り込むような真似はした事が無い。しかも……
「熊の方は規格外れにデカいし、猪の方は群れ――ってんだからなぁ……」
何でこんな事になっているのかは解らないが、双方ともに退く気配は全く無い。そのせいでネモに気付くゆとりが無いらしいのはありがたいが……
「……これ、下手に乱入したら、双方を敵に廻す事になりかねんよな……」
転生時に【眼力】というチートスキルを貰ってはいるが、現在のネモのレベルだと、同時に複数目標を制圧するのは難しい。それは自称【生活魔法】にしても同じである。
「はぁ……猪の方をこっそりと減らしていって……その分【眼力】か【施錠】で熊公の動きを封じるとかして、戦線の膠着を保つしか無ぇか……」
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結論から言うと、ネモは巧妙――と言うか、狡猾――に立ち廻ってバイコーンベア(特大)とハーディボアの弱体化を進め、最終的にその両者を狩る事に成功した。
狩った数が多いために、その場では血抜きをするのが精一杯であった。ラノベで読んだように水中に沈めて肉を冷やす余力など無かったし、そもそもここでそんな迂闊な真似をしようものなら、水蛇や大水蛇を呼び寄せる事になりかねない。しかし、ネモには切り札があった。
「【熱交換】を貰ってて良かったぜ……」
以前に貰った【熱交換】スキルで、肉の品質を損なう事無く急速に冷ます事ができたので、あとは片端から【収納】するだけだ。
「一時はどうなる事かと思ったが……何とかなるもんだな」
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