第二十章 スネーク狩り 1.水産ギルドからの依頼
~Side ネモ~
その日、仕事を終えて帰って来た父さんが俺に言う事には……
「ギルドからの呼び出し? 俺に?」
間違えないように言っておくと、この村でギルドと言えば水産ギルドの事だ。湖沼地帯における生業のほぼ全て――漁撈・水運・製塩その他――を一括して取り扱っている大規模ギルドで、他所の土地では冒険者ギルドや輸送ギルドが引き受けるような案件も、この土地では水産ギルドが取り扱っている。他所から来た冒険者なんかも、この土地で活動する場合は水産ギルドを通して依頼を受ける。
そんなギルドが弱冠十二歳の俺を呼び出すという事は……
「また大水蛇でも出たのかな?」
「大方そんなところだろう。お前は得意だからな、大水蛇狩り」
「いや……そういうわけでも……」
十歳の時、前世の記憶と一緒にスキルやステータスが解放されたので、俺の狩りの技倆にも磨きがかかった。それが功を奏してか、大水蛇も何回か狩った事があって、以来ギルドに目を付けられた感じなんだよな。ま、ここは俺の故郷だし、ギルドに手を貸さないって選択肢は無いんだけど。
それに、大水蛇を放って置くと、家畜や赤ん坊、子供なんかまで襲われるからな。うちの弟妹たちが狙われでもしたら大変だ。普通の水蛇のうちは魚や蟹を食べる程度だから、漁師も放置してるんだけどな。魔獣化して大水蛇になったやつは狩るしかない。
「とにかく、明日の朝一で行ってみるよ」
「あぁ、頼む」
・・・・・・・・
「お久しぶりですギルド長」
水産ギルドのボスの事は、ここではギルド長と呼んでいる。なぜかギルドマスターじゃないんだよな。てか、王都ではギルドマスター呼びだと知って、ゲームと同じだと何となく安心したもんだ。
「おぅ。折角実家に帰って来てるってのに、すまんな」
「多いんですか?」
「ちっとな」
ギルド長は長ったらしい話を嫌う性分なので、単刀直入に訊いてみた。大体、ここの水産ギルドなら、今更大水蛇ごときに手を焼く筈も無い。なら、大水蛇の数が多いか、別の強力な魔物が出たかだろう。そう思って訊いてみたんだが、答は前者のようだった。
「ギムルんとこの赤ん坊が狙われてな」
「えっ!?」
「あぁ、心配無ぇ。赤ん坊は無事だ。けど、マーチンとこでも山羊がやられて、他でもあちこちで見つかってる。国に頼んでちゃいつになるか判らんしな。手早く済ませてぇと思って、お前を呼んだ」
「……俺一人でやれと?」
「馬鹿言え。そこまでギルドは落ちぶれちゃいねぇ。数が多いんで、手伝ってもらいてぇだけだ」
「何頭見つかってるんです?」
「確認できただけで十一匹だ」
「十一……それは多い……」
「だから頼む」
「解りました。場所は?」
「あぁ。目撃された場所と時刻はこれだ」
そう言ってギルド長は地図を見せてくれた。その中から、俺の家に比較的近い場所を幾つかチェックしておく。
カソルでも一匹退治したし、今年は大水蛇の当たり年なのかもな。一応ギルド長には、カソルでの件も報告しておく。酒で酔わせてから狩ったと報告したら、ギルド長は一応感心してくれたが、
「大勢で囲んでボコった方が早ぇな」
「カソルじゃ慣れた人手が集まらなくて」
大水蛇に慣れた人数さえ確保できれば、退路を断った上でロープで絡め取り、陸上に引き摺り上げた方が早いからな。こっちじゃそうしてる。あとは、夜間に捕食活動中のやつを見つけて、逃がさないよう取り囲んで袋叩きとかな。どちらも人手が要るのが難点だが。
「俺以外の人手は?」
「何とかする。折り好く王都の冒険者もいるしな。知り合いなんじゃねぇか?」
はて、王都からこっちへ来た冒険者がいたかな? 気になったので紹介してもらうと……
「あんたたちか……」
「「……………………(冷や汗)」」
俺を見て硬直しているのは、「フクロウの巣穴亭」で騒いで俺に怒鳴られて以来、姿が見えなかった二人だった。確か、ビルとマットとかいったっけな。酒癖の方は褒められたものじゃないが、ちゃんと働いてくれるんなら俺としては問題無い。
……一言云っておくか。
「ギルド長、この二人、酒が入ると――」
「あぁ、問題無ぇ。その辺りはちゃんと教えてある」
水産ギルドの連中は荒っぽいからなぁ……。多分、口よりも先に手で教えたんだろうけど……まぁ、ちゃんとやってくれるんならいいか。