第十九章 郷里 2.家族会議(その2)
~Side ネモ~
……思ったより早く家族会議が終了したので、俺はこの際だからもう一つの案件を提出する事にした。……決して微妙な空気に耐えられなかったわけではない。
「……さっきの件とも関係するんだけど……ネロとネイラの魔力、普通より多いような気がするんだ……何となく、だけど」
俺が前世の記憶持ちだとか、ユニークスキルが発現しているとか……そういうのはさすがに家族にでも明かせないから、何となく煮え切らない言い回しになったが、それでも俺の言いたい事は解ってもらえたようだ。
「……この子たちにも、魔術師の素質があるっていうの?」
「素質があるかどうかは、俺には判らない。ただ、魔力量は多いような気がする」
この国の判定って、単純に魔力量の大小だけで決めてるみたいだしな。ネロの魔力量は、現時点で大人の平均値をぶっちぎって、魔術師の平均値に届きかけてる。二年後の「祝福の儀」では、まず間違い無く魔術師の素質ありと判定されるだろう。ネイラもネロほどじゃないにしても、大人の平均は余裕で超えてるからな。こっちも可能性は高いだろう。
そう言ってやったんだが……みんなは半信半疑の体だった。
「信」の根拠は、二人とも俺と同じ【生活魔法】が使える事。
「疑」の根拠は、二人とも二年前の俺ほどには【生活魔法】が使えない事。
……信・疑どちらの根拠も俺なのか……
「……まぁ、これは単なる俺の勘だから、外れる可能性だってある。だから当然よそには漏らさない方針で。俺も学園には黙っておく」
そう言うと、家族一同は神妙に頷いてくれた。どう考えてもヤバいからな。
「ただ、もしもそうなった時の事を考えておくのは悪くないと思う」
――と言うより、必須だろう。
「お前らはどうしたい?」
「あたし、まほうつかいに、なってみたい。お兄ちゃまといっしょ」
「……ぼくも、まほうを使ってみたい」
ふむ……。まだ八歳と六歳だから、これで決定というわけじゃないだろうが……現時点における二人の志望という事ではあるな。
「……ネモ、魔導学園って、どういうところなの? 平民出は虐められるとか?」
「いや、そういうのは無いな。と言うか大抵は、平民は平民、貴族は貴族で纏まってるから……大抵は」
――俺はなぜか、貴族の群れの中に投げ込まれたけどな!
「学園が寮と食事は用意してくれるし、平民出の生徒たちの間には小遣い稼ぎのノウハウも伝わってるみたいだし、少しくらいの小遣いなら俺が渡してもいいしな。贅沢を言わなけりゃ、四年間はやってけるだろ。勉強の方なら、少しくらいなら俺も見てやれるし」
弟妹たちも読み書き計算ぐらいはできるし、有用あるいは危険な生物の知識は、俺や家族から教え込まれている。帰省の度に俺が少しずつでも勉強を見てやれば、授業についていく事はできるだろう。ただ……
「……もしもの話だけど、俺に続いてネロまで素質ありと判定されたら、他のみんなも疑われるんじゃないかと……」
そう言ってやったら、みんな愕然とした顔になっていた。……そりゃあねぇ……今までの人生を一般人で通してきたのに、いきなり魔術師の家系だとか言われたらなぁ……
「……ウチは代々しがない漁師の家柄じゃ。エイダさんの血筋ではないんかの?」
「……いえ……うちだって成り上がりの商人ですし……先祖に魔術師がいたなんて話は聞いてません」
「と、すると……」
全員の目が俺の方を向いたんだが……実は、思い当たる節が無いわけじゃない。
マーディン先生に聞いたんだが、魔獣の肉、特に内臓は魔素が豊富で、薬効の高いものが多いんだそうだ。……俺は食材としてしか見てなかったし、毒の有無だけ確認したら他の項目はスルーしてたからな……
もう一つは、ドルシラのお嬢が前に漏らした成長期の魔力量云々という言葉だ。
成長期に、魔素の豊富な食材を、度々食べたのが原因……という可能性は捨てきれない。蛇以外にも時々狩ってたしな。
大物は大抵【着火】で斃してたんだが、これだと毛皮なんかは使い物にならないんで捨ててたからな。肉や内臓は食べたり薬の材料に、骨は出汁を取った後で肥料にしてたし……素材を売るなんて事は無かったから、ある意味で証拠隠滅は万全だった。俺の家は村外れにあるし、バレてはいないと思うんだが……
あと一つ。
魔力を使い切る事で魔力量が増えるというのは、ラノベ的知識のとおりだったんだが……これ、大前提として、回復のための魔力なり魔素なりを充分に補給できる必要があるよな?
湖沼地帯は元々魔力が豊富だし、使い切った後安静にしていたら自然と回復するんだが……ヨガみたいに呼吸を整えたり、筋肉の適度な緊張と弛緩を繰り返したりしていると、通常より回復が早いんだよ。どうも、魔力の循環を整える効果があるらしい。
俺が早いうちに【魔力操作】のスキルを得たのも、ひょっとしたらこれが関係している可能性がある。授業で習ったんだが、【魔力操作】のスキルは魔力を動かしたり循環させたりして訓練するが、出鱈目に動かすと気分が悪くなるんだそうだ。正しい魔力の流れを憶える事も重要なんだって言われたけど、俺にも心当たりがある。問題は……この同じ方法を弟妹たちにも教えてある事なんだよな。
俺流の【生活魔法】は結構魔力を消費するし、魔力欠乏による疲れを感じたらすぐに休憩するように言っていた。夜に魔獣の内臓を――ちゃんと美味くなるように処理して――食べる事も多かったから、魔力の「超回復」が促された可能性は無きにしも非ずなんだよなぁ……
「……確証のある事じゃないし、これも当分は黙っておくという事で……?」
みんなは黙って頷いた。……少し顔色が悪かったが。