第十九章 郷里 1.家族会議(その1)
~Side ネモ~
その朝、聞き慣れた小鳥の囀りで目を覚ました俺は、実家に帰って来た事を改めて実感した。
通行止め箇所を新たに貰ったスキル【熱交換】で突破した俺は、その日のうちにチャシクの町に辿り着いた。チャシクで一泊した俺は、翌朝早いうちに町を出て、その夜実家に帰り着く事ができた。
家族は俺の帰宅を喜んでくれたよ。……何だかほっとした。ここは紛れもなく俺の「家」なんだ。その後は久しぶりに家族と一緒に夕飯を摂って、王都の土産を渡したり学生生活の事を話したりしていたら、弟妹たちがコクリコクリと船を漕ぎ始めた。俺も疲れているだろうからって、母さんに早めに寝むよう言われたんで、その言葉に甘える事にしたわけだ。
二段ベッドの上の段に寝ている弟妹たちを起こさないよう注意して着替えてから、そっと部屋を出た。この辺りは湖沼地帯で地面の湿気が高いから、基本的にどこでもベッドを使ってるんだが、二段ベッドは俺が拵えるまで知られてなかったんだよな。今は他の家でも使ってるみたいだが。
「お早う」
「おぉ、起きたかネモ」
「お早うネモ」
「お早う」
当たり前のように朝の挨拶を交わす。……あぁ、やっぱり家族っていいもんだな。
「お早うネモ、あの子たちは?」
「まだ寝させておいた。昨夜は少し遅かったから」
「お兄ちゃんが帰って来たって燥いでたからねぇ……朝ご飯ができたら起こしてくれる?」
「解った。母さん、何か手伝おうか?」
「あぁ、それだったら水汲みをお願い」
俺は頷いて表の井戸のところへ行くと、水を汲み上げて水瓶を満たしていった。【生活魔法】の【給水】でも水を生み出す事はできるが、普通に井戸から汲んだ方が早いしな。
……そう言えばこの【給水】、学園の連中は【生活魔法】に含まれてないような事を言ってたんだよな。面倒だから黙っておいたが……俺のステータス画面では、確かに【生活魔法】になってるんだよなぁ……まぁいいか。
「兄ちゃん、お早う」
「お兄ちゃま、おはよう」
おぉ、弟妹たちも起きてきたか。丁度準備もできたみたいだし、朝飯だな。
・・・・・・・・
朝飯を済ませた後で、俺は相談があるからと言って家族に集まってもらった。
家族というのは俺を含めて七人。父さんのハロンは三十二歳の漁師で、母さんのエイダは二十六歳の主婦。……長男の俺が十二歳なんだから……解るな? 結婚年齢が早いこっちの世界でも、さすがに早い初産だったらしい。母方の祖父ちゃんが荒れてたって話だ。……だから、もげろとか言わないように。
ヴィクレム祖父ちゃんとハンナ祖母ちゃんは父さんの両親で、現在は隠居の身。祖父ちゃんは時々漁の手伝いに行くが、大抵は俺が見つけた野生の米の世話をしている――こっそりと。まだ数が少なくて、村に行き渡るほどの収穫は得られないからな。
弟のネロは今年で八歳、妹のネイラは六歳。二人とも、どうやら魔術師の素養があるらしい……と言うか、俺の【眼力】で見る限り、魔力量が一般人より明らかに多い。
今朝、家族全員に集まってもらったのは、ある意味でこの二人についてだ。
・・・・・・・・
「ネモ、改まって話って、何なの?」
そう訊いてくる母さんにこんな話をするのは辛いけど、これはやっておかなくちゃならない……弟妹たちのためにも。
「えーと……何と言ったらいいのか……学園で教えられたんだけど、俺の【生活魔法】って、少し変わってるらしいんだ。で、おかしなやつらに目を付けられると拙いから、あまり人前で使わないように言われたんだ」
生活を便利にするための【生活魔法】を人前で使うな――って、そっちの方がおかしいと思うんだけどな。
「で、問題はネロとネイラなんだよ。二人には俺が【生活魔法】を教えたし、俺の入学前にそこそこ使えるようになってたよな? で、今後はあまり人前で使わないようにする事と……もし誰かに見られてたら、その人にも口止めしておかないと駄目らしいから……迷惑かけて悪いと思うけど……」
そう言うと、みんなは俺の方を見つめてから……
「「「「「「知ってた」」」」」」
……え……?
「いや、そりゃあなぁ……【施錠】で熊やら猪やらの足を停めて、【着火】で焼き殺すなんて真似をしてりゃあなぁ……」
「おかしいと思うわよ、普通」
「と言うか……ネモは本当におかしいと思わんかったのか?」
「あたしゃそっちの方が心配だねぇ……」
……あれ……?
「だ、だったら、人前では……」
「使ってないよ」
「うん。ないしょにしてた」
――家族会議、終了?