第十七章 カソルの町 5.大水蛇(その1)
~Side ネモ~
面倒な小僧を軽くシメたところで町を出ようと思っていたんだが、ギルマスが俺に依頼があるという。ギルドとしての依頼であれば受けるに吝かでないが……何なんだ?
「すまんな……ネモに頼みたい依頼があったんだが、頼む前にこの不始末だ。ギルドとしちゃあ、あまり厚かましい真似もできねぇんだが……」
「あの馬鹿はギルドとは無関係という事で。俺としては構いませんよ」
あの中二小僧のせいで、アレンやギルドとの間が微妙になったからな。ここは関係修復に動いておいた方が良いだろう。
そう考えて肯定的な返事をすると、ギルマスが見て判るほどにほっとした表情を浮かべた。……面倒な依頼じゃあるまいな?
「そう言ってもらえて助かる。頼みてぇのは大水蛇なんだ」
大水蛇か……故郷にいた頃に何度か狩った事があるな。故郷は湖沼地帯だから、けっこうあちこちに出没していた。子供が呑まれる事もあるから、見かけたらすぐに駆除してたっけな。でかい分食いではあるんだが、そのままだとちょっと大味なんだよな。
親爺や爺ちゃんも何度か仕留めてた筈だ。そういう意味じゃ手慣れた相手ではあるんだが……普通に狩るんなら、そこそこの人数が必要なんだよなぁ……
「大水蛇なら、故郷にいた頃に何度か狩るのを見た事がありますから、狩りの手順も知っていますけど……人手がそこそこ要りますよ? 狩った経験がある人たちは集められますか?」
そう言ってみたら、ギルマスは渋い顔をした。
「……大水蛇なんて、こっちじゃ滅多に出て来ねぇからな……見た事も無ぇってやつが大半なんだよ」
「人数は集められても、素人ばかり――と?」
「そういう事になるな」
「だとしても、追い払うだけならどうにかなるんじゃないですか?」
大水蛇は危険を感じるとすぐに逃げちまうからな。慣れてないと狩るのは難しいかもしれんが、追い払うだけなら力押しでどうにかなると思うんだが……
「それがな……皮革ギルドと薬師ギルド・魔導ギルドが、何としても素材を確保しろって煩ぇんだよ。……ネモの滞在中に大水蛇が出たって事で、千載一遇の好機と思ってんじゃねぇか?」
好機ねぇ。皮は幾つか手持ちがあるんだが……さすがに子供が独りで狩ったっていうのもおかしいから、前回は出してないんだよな。……今回も知らんぷりしておくか。
「ネモが狩り方を知ってるってんなら、アレンと一緒にやってみてくれんか?」
「待って下さいよギルマス、俺はまだ仮登録年齢にも達してない見習いですよ? 討伐依頼なんか受けられる筈が無いでしょう」
「いや、そこはアレンが討伐依頼を受注して、お前がその手伝いって事にすりゃあ何とかなる。ただな、アレンも大水蛇の狩りなんてやった事が無ぇって言うんでな」
「追い払うだけなら何とかなるだろうが……川に飛び込まれて逃げられたら、俺じゃあどうにもならんからな。俺だけじゃ狩るのはちょっと無理なんだよ」
アレンとか……。いっそ俺だけなら、【生活魔法】で簡単にけりがつくんだけどな。目撃者がいるとなると、それはできんか。……いや、それ以前に、【生活魔法】をあまり使うなと言われてるんだよな。
さて、どうしたものか。
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~Side アレン~
結局ネモの坊主は、俺と組んで大水蛇を狩るっていうギルドからの依頼を引き受けた。これ以上カソルのギルドとの関係をおかしくさせるのは拙いって事なんだろうが……ガキの判断じゃねぇよなぁ……。ま、俺としちゃネモとの関係に罅を入れずに済んで助かったが。
ネモのやつは故郷にいた頃に大水蛇の狩りを見た事があるらしいが、そいつは手慣れた連中が五人以上組んでやってたらしい。人数だけならともかく、大水蛇どころか蛇狩りの経験があるなぁネモ一人。どうすんだと思っていたら、しばらく考えてネモのやつ、
「……一つ試してみたい方法があります。上手くいかなかったら力押しでの討伐に切り替えますから、参加人数は当面俺とアレンの二人だけで」
そう言って用意させたのは、餌としての山羊と強い酒だった。酒に酔って動けなくなった大蛇を狩るって言い伝えを聞いた事があったとかで、一か八か試してみたいって事らしいが……上手くいくのかね。