第十七章 カソルの町 4.定番(テンプレ)のイベント
~Side ネモ~
カソルの町で一泊した後、町を出る前に一応冒険者ギルドに顔を出しておこうと訪れた俺の前に、またぞろ定番の面倒事が降って来た。
「おいっ! ガキが余計な事チクりやがって……手前のせいで、折角のチャンスをフイにしちまったたろうが! 落とし前をつけてもらうからな!」
あぁ……またこの中二小僧かよ……この手のガキは自分に非があるとは考えもしないから面倒なんだよな。……後ろの方にパーティメンバーがいるが、止めようともしないか……こいつらも同罪だな。
「……お前が言ってんのは、アレンに愛想を尽かされた事か? だったら恨むのは筋違いだ。俺が口を出す前に縁切りされてたろうが。それとも、熊公に殺されかけてたのを助けてやった事か? 手の込んだ自殺をしたかったってんなら謝っておくぞ?」
そう言ってやると、顔を真っ赤にして何か喚きながら殴りかかって来た。街中で剣を抜かない程度の良識は持ち合わせていたか。だが……
「――だはっ!」
「ルイス!」
「拳を振り上げたのはカッコだけか? 足元がお留守になってるぜ?」
突っ込んで来るのを躱して足を引っかけてやるだけで、馬鹿が盛大に転びやがった。……こりゃ、基礎から叩き直さんとどうしようも無いな。冒険者見習いの子供にいいようにあしらわれてるようじゃ、先々やってけそうな見込みは無い。
「……ち……畜生……お前が……お前のせいで……」
「責任は全部他人持ちか? 甘ったれるなよ、小僧。ぜ~んぶお前が悪いんだよ。身の程知らずに熊公に手を出して殺されそうになったのも、勝手な真似をして指導役に愛想を尽かされたのも、こんな子供に喧嘩売って無様に負けたのも、な」
「ふ……ふざけんな……ちっとばかり王都のギルドに雇われてるからって、いい気になりやがって……手前みたいなガキを飼ってるたぁ、王都のギルドも焼きが回ったもんだ!」
……あ゛……?
「ヒッ!?」
この小僧……今、何てった?
「――!? ――!」
俺の事を悪し様に言うのはまだしも、ギルドの事まで貶されたとあっちゃあ、職員の端くれとして黙って見逃す事はできんな……
「あ……あ…………」
お仕置きってやつが必要だな。生意気な口がきけないようにしてやろうか。……とりあえず、顎の骨でも握り潰しておきゃいいか……
「おい待てっ! ネモ! やめろっ!!」
俺の肩に手を掛けたのはアレンか……邪魔をするつもりか?
「……アレン、お前もこいつらの肩を持つつもりか?」
「い……いや、そういうわけじゃねぇが……」
「俺だけならともかく、王都のギルドが虚仮にされたんだ。それ相応のケジメってやつをつけなきゃ収まらんぞ?」
なに、命まで取ろうとは言わんよ。ただな、腕の一~二本と目玉の一つぐらいは――な?
「――だったら、同じギルド職員としてお願いします。どうかそれくらいで勘弁してやって下さい」
アレンに続いて割って入ったのは、このギルドの職員さんのようだった。
「ネモ、儂からも謝る。この件についちゃ、儂が王都のギルドに詫びを入れておく。だから、そのへんで勘弁してやってくれ」
「……ギルドマスターにまでそう言われると……これ以上はこちらのギルドの顔を潰す事になりますね。……解りました、ここは引きますが……王都のギルドへのケジメと、こいつらの始末についてはお願いしますよ?」
「わ、解った」
泡を吹いた上に小便まで漏らして気絶している中二小僧と……その後ろで、これも同じように卒倒している駄目メンバーを見て、ギルマスに念を押しておく。
……今度見かけた時に態度が改まっていなかったら……狩るか。
――人を殺した事が無いわけじゃない。
入学のために王都へ向かっていた時、俺を殺そうとした盗賊たちを返り討ちにしてやったからな。……ラノベなんかで能くあるように、前世の記憶が邪魔して殺せないんじゃないかと思ったが……割と冷静に対処できたのは、神様に貰った【不動心】スキルのお蔭と、俺の精神構造がこの世界に馴染んでいるって事だろう。……あと、気が付いたら死後二百年経っていたってのも大きいかもしれん。前世の記憶が有ろうと無かろうと、今の俺がこの国の「ネモ」だというのは事実だからな。……まぁ、初めての殺しは、あまり気分の良いもんじゃなかったが。
ちなみに、屍体はそのまま放置しておいた。手続きなんかが判らなかったしな。
今回のこいつも剣を抜いてかかって来てくれたら、正当防衛で後腐れ無く片付けてやれたのに……そう考えるくらいには、俺もこっちの流儀に慣れてきたって事か。
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~Side アレン~
……いや……冗談でなく肝が冷えたぜ。
ネモのやつ、あの若造の頭を握り潰そうとしていやがった。
対抗戦の時に立ち会ってその手並みは知っていたし、何か隠し球を持ってるだろうって事も気付いちゃいたが……あの【威圧】がその一つかよ。
……あの小僧、睨まれただけで動けなくなっていやがった。……あのままジワジワと頭を潰されて死ぬのを待つだけってなぁ……どういう気分だったんだろうな。……思わず止めに入ったが……あの時のネモの目……思い出しただけでもチビりそうだぜ。……小僧は実際にチビってたしな……
だが、ネモが腹を立てるのも無理はねぇ。あの小僧、口が滑ったにしてもギルドを貶すような真似を、選りに選って「王都ギルドの門番」とまで言われてるネモの前でやりやがって……あの職員とギルマスが執り成してくれなかったら、どうなってたやら。
……ま、あの小僧どもにゃ良いクスリになっただろ。世の中にゃ怒らせちゃいけねぇ相手がいるって事だ。
どのみちあいつらは降格の上、徹底的に叩き直すってギルマスも言ってたしな。
……しかし……「凶眼の断罪者」たぁ、言い得て妙だぜ。……「食卓の番人」ってなぁ能く解らねぇが……