第十七章 カソルの町 3.冒険者ギルド
~Side ネモ~
「……そうか。向こうっ気の強さが良い方に伸びてくれたらと期待していたんだが……残念だ」
「悪いが俺としちゃあ、これ以上あいつらの面倒を見る気にゃあなれねぇ。指導役が必要だってんなら、他を当たってくれ」
「解った」
ギルドに報告するために同行してくれというアレンの要請を受けて、俺はカソルの町の冒険者ギルドに来ている。アレンが証人として俺を紹介した時には胡散臭そうな目で見られたが、噂の「鉄風ネモ」だという一言で納得された。……いや、どんだけ広がってんだよ、その二つ名。恥ずかしいから止めてほしいんだが……
それはともかく、ここのギルドマスターからあのパーティの戦力評価を頼まれたので、飽くまで見習いからの視点だと前置きした上で、初心者としては普通なんじゃないかと答えておいた。
「普通……だと?」
「俺が見たのは、格上のバイコーンベアに対している時の様子だけですからね。適切な評価はできませんよ。ただ、さっきおっしゃったように、あの剣士の小童……失礼、向こう意気だけは強いみたいでしたね。……腕の方はそれに見合っていませんでしたけど」
駆け出しがいきなりバイコーンベアなんかに出会せば、反応としてはあんなもんだろう。ゆえに問題となるのは――
「身の程知らずにバイコーンベアを狩ろうとして山に向かったのか、そんなつもりは無かったのに偶々バイコーンベアに出会したのか、この違いでしょう」
ま、あの青二才の口ぶりから察するに、前者の可能性が高いと思うけどな。大方あの跳ねっ返りが主張して、仲間がそれに引き摺られた形なんだろうが……
「だからと言って、残りの彼らが無罪放免というわけにはいきませんけどね。一人前の冒険者なら、その辺りは自分で判断すべきです。その上で、あの残念君の意見に従ったというなら、その判断の責任は自分で負うべきでしょう」
そう言ってやると、ギルマスは複雑な表情を浮かべていた。
「……お前さんみてぇな見習いにも解る理屈が解らねぇあいつらが馬鹿なのか、あいつらが解らねぇ理屈が解るお前さんが出来星なのか……」
「……後者だと思うぜ」
おっと……今の俺は十二歳だったっけな。年相応に振る舞うべきだったかもしれんが……いや、ここは譲れんな。
「その辺りの判断はギルマスにお任せしますよ。ただ、願わくば将来の依頼人が迷惑や不利益を被る事の無いようにして戴きたいですね」
そう言ってやると、ギルマスは溜息を吐いた。
「……解った。この件はウチの方で預からせてもらう」
ギルマスはそう言うと、今度は俺の方に向き直った。
「ネモだったな。ウチの問題に巻き込んじまって悪かった。で、迷惑ついでにもう少し待ってくれねぇか。お前さんが来たら一報入れてくれって、薬師ギルド・魔導ギルドに皮革ギルドからも言われてるんでな」
あ~……蛇素材の件か。そう言えばそこそこ貯まってたな。好い機会には違いないか。
「解りました。連絡の方をお願いします」
アレンは怪訝そうな顔をしていたが、やがて駆け着けた各ギルドの職員に、蛇の頭部と皮、内臓それぞれを一纏めにして提出したのを見て納得したようだ。……精算された金額には目を剥いていたが。
「蛇って、こんなに金になんのかよ……」
「危険なものが多いから、冒険者連中はあまり手を出さねぇからな。それに……」
聞くともなしに聞いていたら、肝心の皮に傷付けないように仕留めるのが面倒だとか、仕留めた後の処理を知らないとか、死んだ後もビチビチと動き回るのを気味悪がる冒険者が多いとか……俺からすれば意外な話だ。蛇なんて、味は良い・栄養は豊富・素材は売れるの、三拍子揃った理想的な獲物なんだが。気味悪いなんて言って選り好みできるとは、冒険者っていうのも結構贅沢なのかもしれん。
「……いや……話に聞いた事はあるが、実際に蛇を食うってやつに会ったのは、ネモが初めてだぜ」
「……普通はウサギとか鳥とか……その辺りを狙うんじゃねぇのか……?」
「子供にウサギや鳥が簡単に獲れるとでも? 蛇や蛙が狙い目なんですよ。あとは虫とか」
「「……虫……」」
いや、結構食えるんだけどな。バッタとか幼虫とか。
「……ま、子供の頃からの年季ってやつですかね」
そう言うと妙な顔で納得されたが……
「……あの買い取り金額は魅力的だが……それも傷付けずに獲った場合の事だろうし……」
「……毒にやられる危険性を考えたら、ギルドとしても推奨はしにくいな」
「慣れたらどうって事は無いんですけどねぇ……」