第十七章 カソルの町 2.青二才(その2)
~Side ネモ~
面倒な中二小僧に関わっちまったと後悔してたら、そこへ飛び込んで来たのが「大陸七剣」の一人「剛剣アレン」。「肉切り包丁」とか「ミートチョッパー」とも呼ばれる大剣使いが、何でこんな田舎に……?
「お前ら! 俺の言う事も聞かずに勝手な真似をしやがって……俺の指導に文句があるってんなら構わねぇ。こっちもお前らの指導を下ろさせてもらう!」
「ア、アレンさん!」
「そんな……文句だなんて……」
「俺の指導に従わず勝手に格上に突っ掛かっていくような真似を、他にどう解釈しろって言うんだ? あぁ?」
……なるほど。そうなった経緯までは判らんが、どうやらアレンはこの中二パーティの指導を頼まれていたみたいだな。俺はこれでも冒険者ギルドの職員だから、ギルドがベテランの冒険者に新人の指導を頼む事があるのは知っている。ただ……そういうのって、見どころのある新人の場合だった筈だが……?
「この事はギルドにも報告させてもらうからな。そこのあんた、悪いがちょっとばかし付き合って……くれ…………って…………ネモかぁ!?」
……おぃ、幾ら何でも驚き過ぎだろう。
「いや……何で『鉄風』ネモがこんなところに……いや……それより、そのマントって……お前、本当に魔導学園の生徒だったのかよ!?」
「……前にそう言っただろう。それより、〝こんなところに〟――ってのはこっちが訊きたい。……あと、『鉄風』って何だ?」
「……いや……武闘会でのあの暴れっぷりを見て、魔導学園の生徒だなんて信じろって方が無理だからな? 『鉄風』ってなぁその時付いた二つ名だよ。あと、『嵐杖』とか『暴虐の杖』ってのもあった筈だぞ。……あぁ、『凶眼の断罪者』ってのもあったんだっけな」
「勘弁してくれ……」
ちなみにアレンがここにいる事情は、さっき話に出てきたとおりだった。アレンの言うところに拠ると、「大陸七剣」などと言っても肩書きだけで、普段は普通に冒険者として稼いでいるらしい。偶々この近くのカソルという町に立ち寄ったところ、そこのギルドから新人指導の指名依頼を受けたんだそうだ。
俺の方の事情を訊いてきたので、夏期休暇を利用して帰省する途中である事、偶々通りがかったところで、このパーティがバイコーンベアに襲われていたのに遭遇した事を話しておいた。俺が介入しなかった場合の戦いの帰趨について意見を訊かれたので、まず間違い無く熊公の餌になっていただろうと答えておいた。仮にも冒険者ギルドの依頼に関わる質問である以上、俺が見た事実を偽り無く答えるべきだからな。同情だの憐憫だのの出る幕は無い。俺の証言が原因でこのパーティの評価が歪められ、その結果依頼人に損害が出るような事になったら、そっちの方が問題だ。
「……解った。ギルドの評価とはちと違うが、俺の評価もネモと同じだ。依頼はここで打ち切りとして、ギルドに報告を出す事にする」
「そ、そんな……」
「――待てよオッサン! そんなガキの言う事を真に受けて、俺たちの指導を投げ出そうってのかよ!?」
おぃおぃ、まだ二十代のアレンをつかまえてオッサン呼ばわりは無いだろう。
「……あ゛? 誰がオッサンだ? このガキ。大人の忠告も聞かずに勝手な真似しやがって、挙げ句に見習いに助けられたのはどこのクソガキだ? ……まぁ、その同じ見習いに負けた俺が言っても説得力は無ぇが……」
ボソッと呟いたアレンの〝負けた〟発言に駆け出したちが硬直しているようなので、訂正を要求しておく。
「――おぃ、あの勝負はアレンの勝ちって事になってるだろうが」
「けっ、あんな判定、誰が納得するかよ。誰がどう見ても俺が不利だったろうが」
「抜かせ。まだまだ奥の手の二つや三つは隠し持ってただろうが」
「そりゃ、そっちも同じだろう」
俺たちが言い合ってるところに、斥候らしいのが恐る恐るという感じで割り込んできた。
「あ……あの……そっちの子、魔導学園の生徒ですよね? ……え? ……武闘会って?」
ほら見ろ。混乱してるじゃねぇか。そもそも、俺が出たのは武闘会じゃない。
アレンに誤解を訂正させてやったら、駆け出しパーティは俺の事を化け物か何かのような目つきで見始めた。……きっとアレンの説明が悪いせいだ。
そのアレンはと言えば、四人組――正確には生意気小僧を除く三人――から説明を聞いて、やっぱり妙なものを見る目つきで俺を眺めているんだが……解せぬ。
「……おぃネモ、こいつらが言うにゃ、ファイアーボールの一発でバイコーンベアを片付けたってぇ事なんだが……?」
「ま、これでも魔導学園の生徒だからな。学園独自の魔法ってやつもあるんだ」
――という事で白を切り通すしかない。
はぁ……余計な仏心を出したばっかりに、面倒な事になっちまった。
本日21時頃、新作「公爵令嬢と悪魔と婚約破棄」を投稿します。流行りの婚約破棄もので、全18話構成となります。宜しければご笑覧下さい。




