幕 間 ネモ式【生活魔法】の波紋
本年最後の更新になります。
~Side ライサンダー学園長~
一年生の魔法系科目を担当する教官が三人揃って面会を求めてきたが……これはやはりネモ君の事であろうな。
「先生方がお揃いでお越しという事は……?」
「然様、ネモの……自称【生活魔法】についてですな」
最年長という事でか、イーガン教授が代表して話すようじゃな。……しかし……イーガン教授ですら、アレを「自称」呼ばわりか……
とりあえず三人に椅子を勧め、話を聞かせてもらう事にする。
「ネモの協力を得て、自称【生活魔法】使用時の魔力を調べてみたのですが……いや、その前に、学園長におかれては【生活魔法】の属性というものをご存じですかな? ネモのではなく、真っ当な【生活魔法】の事ですが」
ふむ? ……言われてみれば、特に気にする事もなく使っておるな。
「魔法の属性などというものは、言ってみれば取り扱いに便利なように人間が付けただけのものでしてな。魔法の術式などに記述されているわけではないのですよ。まぁ、例えば火の神の加護を得た者は火魔法の威力が上がるという事は確認されていますが、全ての魔法についてその属性が確認されたわけではありません。大体、神の加護なぞ持っている人間は少ないですからな」
ほぉ……これまた言われてみれば納得できる話じゃな。
「そこで【生活魔法】――真っ当な方ですぞ?――に話を戻しますが、その属性についてはほとんど判っておらんのですよ。確かめようとした者もおりましたが、何分にも【生活魔法】はごく僅かしか魔力を使いませんのでな。魔力の質を見極める事もできなんだわけでして」
ここまでくれば儂にも話の落ちは見えてくる。
「そこでネモ君の【生活魔法】か……」
「然様です。ネモの、自称【生活魔法】は普通の【生活魔法】より格段に消費魔力が大きい。魔力の質や動きを見る事もできるというわけでして」
「……イーガン先生、その……『自称』というのは何とかならんのかね? 何やらネモ君が不当に詐称しておるように聞こえるのじゃが」
「これは申し訳ありませんな。しかし、仮にも魔導を志す者として、ネモのアレを一般の【生活魔法】と同列に見る事はできぬのですよ。カサヴェテス先生などは『ネモ魔法』という名称を提案なさっておいででしたが……当のネモに断固として拒否されましてな」
チラリとカサヴェテス先生の方を見ると、困ったように肩を竦めておる。……本人も半ば自棄で提案したようじゃな。
「私としては、原【生活魔法】と呼びたいところですが、未だ確信には至っておりませぬのでな。早まった命名は避けたいわけでして」
「ふむ……そういう事なら仕方があるまいが……表に出す時には『自称』呼ばわりは慎んで下されよ? ネモ君が妙な勘繰りの対象にされるようでは困るのでな」
「承知致しました。話を戻しますが、ネモの……【生活魔法】ですが、無属性に光属性と闇属性が混じっておるようですな」
ふむ?
「五大属性は……木火土風水の五属性は無いのかね?」
【着火】は火魔法ではないとでも言うのか?
「学園長が気にしておいでなのは【着火】だと思いますが、我々にとっても予想外でしたが、あれは火属性の魔法ではありませんでした。……自分としても不可解なのですが、どうも闇属性のようで……」
「闇魔法じゃと!?」
思わず声が大きくなってしもうたが……無理もあるまい。無魔法・光魔法・闇魔法の三つは、修得者が少ない事でも知られておる。なのに、大多数が苦労もせずに使っておる【着火】が闇魔法だなどと……予想外にも程があるわい。
「一言忠告しておきますが、飽くまでネモ式【生活魔法】の場合ですからな。……とは言うものの、考えてみれば同じ【生活魔法】の【点灯】は光属性なわけでして」
……そう言われてみれば、そうか……
「一旦【生活魔法】に作り直された時点で、元々の属性とは無関係になっておるのかもしれませんな。魔力量や適性に拘わらず使えますし。ちなみに、ネモ式【生活魔法】の【浄化】ですが、無属性に光属性が混じっておるようでしたな。【施錠】と【解錠】は無属性のようでした」
これはこれは……
「立派な業績であるとは思うが、今回はその報告かね?」
「いえ、それもありますが……当学園には光魔法や闇魔法に適性のある者がおりませんので、仮説を検証するために、それらの適性のある者を呼び寄せるべきかどうかをご相談に上がった次第」
ふむ……
「……いや。時期尚早じゃろう。光魔法だの闇魔法だのという事になれば、必ずや神殿や教会に関係する奴原が口を差し挟んでこよう。話が面倒になるだけじゃし、これ以上ネモ君の事を嗅ぎ廻られるのは色々と拙い」
「では……」
「まずは一般の【生活魔法】同様に、本人の適性と無関係に習得できるのかどうか、そちらを先に明らかにしてほしい。……その方が国益にも適うであろうからな」
適性に無関係にアレが使えるとなると、王国の潜在的な魔法戦力が数倍に跳ね上がる事になる。まずはその点を明らかにして、教会だの騎士団だのといった連中に対して、確固たる優位を確立しておかねばな。
「「「解りました」」」
「ネモ君は目下帰省中じゃが、彼の【生活魔法】については秘匿するように言っておいた。万一【生活魔法】で魔獣を斃す事があっても、普通の魔法で斃した事にするようにとな」
ネモ君の生活魔法の事を知っているのは、学園関係者以外は――一応は――王家だけじゃ。ディオニクスの件についても、騎士団関係者には、単に〝魔法で斃した〟とだけ伝えてある。迂闊に触れ廻る事ではないしの。冒険者の中には気付いた者もおるかもしれんが、そっちはギルドマスターを通じて釘を刺してもらっておる。
「ネモ君が家族の許へ帰るというなら願っても無い好機じゃから、妄りに口外せぬよう家の者を説得する事も言い含めておいた。先生方も、その辺は心に留め置いて下されよ?」
学者というやつは、悪気も無くうっかりポロッと口を滑らせてしまいそうじゃからな。
「「「承知しました」」」
新年は六日からの更新になります。良いお年を。