第十六章 仮免講習会 2.疑惑の影
~Side レベッカ~
講習会の二日目を終えて帰る途中、偶然にもナイジェル君とクラリスさんに出会いました。お二人は冒険者としての修行中で、やはりご自宅にお帰りになる途中だったようです。
「ご自宅……ってほど立派なとこじゃないんだけどな、俺ん家は」
「いえ、王都にご自宅があるだけで立派ですよ。わたしの家なんかド田舎の荒ら屋ですもん」
「実家自慢はそれくらいにして、レベッカは仮免講習の帰り?」
「はい。今日で二日目ですね。明日が最終日です」
「で? ネモ君とは上手くコンタクトできたの?」
クラリスさんは興味津々で訊いてくるんですけど……どうなんですかねぇ……
「何よ? 随分煮え切らない答じゃない?」
「煮え切らない……そうですね、何と言うか……違和感があるんですよ」
この際ですから、お二人に相談してみましょうか。
「「違和感?」」
あら、こういうところは、お二人とも息がぴったりなんですね。まぁ、それはそれとして……
「何と言うか……ネモ君、わたしを警戒しているような感じなんですよね」
「「警戒?」」
自分でもおかしな事を言ってるな、という気はするんですけど……他に言いようが無いんですよね、この感じ。
「普段から玉の輿なんて言ってるから、警戒されたんじゃないのか? でなかったら、単に単に嫌われてるとか」
……はっきり言いますね、ナイジェル君は。女の子に対しては、もう少しデリケートな言い回しをするもんですよ?
「う~ん……やっぱり、嫌われてるって感じじゃないですね。よそよそしい気はしますけど、嫌悪感を抱いている――というのとは、少し違うと思います。わたし、こう見えても対人関係には敏感なんですよ」
「あぁ……そういう感じはするよな……」
「女子が苦手なだけっていうのは?」
「違うと思います。他の女の子に対しては、話していたわけじゃありませんけど、特に苦手意識を持っているようには見えませんでした」
「やっぱり嫌われてるだけ「ナイジェル、あんた、ちょっと黙ってなさい」」
クラリスさんが割って入ってきておっしゃるには――
「……実は、あたしも似たような印象を受けた事はあるの」
クラリスさんも?
「――と言っても、あたしの事じゃないんだけどね。モートン先生が何かの用事でネモ君に話しかけた時、ネモ君の態度がそんな感じだったのよ。よそよそしいというか……上手く言えないけど、何となく変だった」
「いや、俺だって先生たちと仲良くしたくはないぞ? まぁ、モートン先生は話が解る方だけど……」
ナイジェル君も何か違和感を感じているんでしょうか。台詞が尻窄みになっていますね。
「……よそよそしいっていうのとは少し違うかもしれないけどよ……あいつ、時々妙に大人びた感じがしないか?」
「……そう言えば、あんた、このあいだもそんな事言ってたわね」
「あぁ。俺が受けた第一印象は、年長者って感じだったんだよ。尤も、これってあいつが長男だからなのかもしれないけどな」
う~ん……大人びた……っていうのも、あるんですかねぇ……
「気になるのは、ネモ君が警戒した素振りを見せるのは誰なのかって事なんです。何となくですけど、警戒している相手とそうじゃない相手がいるみたいなんですよね」
「あまり首を突っ込むのはお薦めしないぞ? 何しろ、相手は『恐怖の大王』で『凶眼の断罪者』だ」
「そうね。人それぞれに事情があるんだろうし、あまり詮索するのも悪いわよ」
「それはそうなんですけど……何となく、この事は知っておいた方が良いような気がするんですよねぇ……」