幕 間 ネモの成績
~Side ネモ~
終業式の前に、一学期の成績表が各人に配られた。中間試験の後でも答案は返ってきたが、それが順位としてどの辺りになるのかは教えて貰えなかったしな。期末試験終了後に、初めて評定されるわけだ。……案の定、学期後半の授業態度なども成績評定の参考にされてるな。中間試験でテストがあった科目は既に評定が終わったものと考えてだらけてたやつは、後期の平常点で泣くわけだ。……エリックのやつは期待を裏切らないな。
俺の成績? 平均よりちょい上ってところだよ。
「ネモさんでしたら、もっと良い成績が取れたと思いますけど?」
「買い被りだな、お嬢。俺のおつむじゃこんなもんだ」
魔力量が多くて【魔力操作】のスキルを持ってるから、魔法の実技はまぁ悪くないんだが、魔法学の基礎なんかはまるで知らんしな。そっちが足を引っ張るから、魔法関係の科目もそこまで成績は良くない。
一般教養科目の方はと言えば、数学なんかはチョロいもんだが、この世界の知識レベルを越えた答を出すわけにはいかんからな。そっちの方が面倒だった。生物や魔物についての知識は、俺が実際に見た事のあるものも結構あったのと、【眼力】の【鑑定】結果も参考になったのとで、そこそこの成績だった。
ネックになったのは、歴史・地理・古典なんかだな。こっちはそもそも基礎知識から駄目だからな。思いっきり足を引っ張ってくれたわ。
礼法は、前世の知識も少し役に立ってくれたから、悪くない成績なんじゃないかと思ってる。
「俺はやはり礼法は苦手だな。どこまでが敬意に収まるのか――とか、質問の意味すら能く解らん」
エルのやつがぼやいてるが――
「相手を認め尊重する事と、自分を不必要に卑下する事は違うぞ? 大方、その辺りを混乱してんじゃねぇのか?」
エルのやつがもの問いたげに目を上げたので、そのまま説明を続けておく。
「不必要に自分を貶めるのは、敬意とは違う。例えばだが、王国貴族として相手をもてなしているのに、自分の王国を貶すなんてのは本末転倒だろうが。相手にとってみれば、つまらない王国のつまらない貴族に接待されたって事になっちまうんだからな。廻り廻って相手を嘲る事にしかならねぇよ。飽くまで、接待する自分というものをしっかり持った上で、相手をもてなすべきなんだ」
そんな事を適当に並べてやったら、なぜかお嬢やコンラートまでが感心していた。……おぃこら、上級貴族。
「ま、俺とエルは愈々となったら逃げ口上が使えるけどな」
「逃げ口上?」
エルが興味津々で食い付いてきたので、
「あぁ。エルの場合だと、〝異国の生まれにてこの国の礼儀を知りません。無礼の段がありましたら、何卒ご寛恕のほどを――〟って言っておきゃいいんだ。ちなみに俺の場合は、〝下賤の生まれにて――〟になるな」
エルのやつが〝これで勝てる〟みたいな顔をしたので、一言釘を刺しておく。
「けどな、これも使えるのは最初の一、二回だからな。それ以上やってると進歩の無いやつって事になって、お前の場合だと主人のリンドロームが恥をかく事になるから気をつけろよ。あと、これが通用するのは実際の場のみで、学園の授業では通用しないからな?」
エルの意気込みは急速に萎んでいったが、一回でも逃げ道が使えるだけマシだろうが。
「私たちはその手は使えませんもの……」
「当たり前だろうが。お嬢たちは子供の頃から礼法を叩き込まれているんだろうが。今更礼法が難しいの何のと、口に出すのがおかしいんだからな?」
お嬢のやつ、力無く目を逸らしたが……大方、目下の者に対する礼儀で減点されたんだろう。確か、それが原因で諍いを起こすプチイベントがあった筈だ。実生活であまり遭遇しなかったシチュエーションだから、対処の方法が身に着いていないんだろう。そう言ってやると、渋い顔をして頷いていた。
「だったら、この学園生活は恰好の練習場じゃねぇか。目下格下への礼儀がなってないと、学園生活は面倒なものになるぞ。好い機会だから憶えるんだな」
我ながら偉そうに説教を垂れていると、コンラートのやつが不思議そうに言ってきた。
「……やっぱり、ネモはもう少し良い成績が取れたんじゃないか?」
「おぃコンラート。最初からそんなに飛ばしてどうすんだよ。クラス首席から二番手に下がっただけで、成績が落ちたなんて言われるんだぞ? その辺りも見越して、最初はほどほどに抑えておくもんだ」
そう言ってやると、唖然とした顔を並べやがったが……大丈夫なのか? こいつら。
本日21時頃、「ぼくたちのマヨヒガ」更新の予定です。宜しければご笑覧下さい。