第十五章 帰省の準備 3.冒険者装備その他
~Side ネモ~
夏休みに帰省するとなると、道中に必要なものを揃えておかないと駄目だ。王都へ来る時は、色々足りないものがあって苦労したんだよな。その反省を踏まえて準備を整えておかないと。今のところ、資金面でも結構充実してるしな。
まず必要なのは食糧だ。携帯食料が基本なんだろうが、俺の場合は【収納】があるからな。日保ちや嵩の事なんか気にせずに、普通の食糧をそのまま持っていけばいい。水も【生活魔法】で出せる……いや……【給水】は【生活魔法】じゃないとか、クラスの連中が言ってたな……。俺のステータス画面じゃ【生活魔法】になってるんだが……まぁいい。何魔法だろうと、水が確保できるなら問題無い。
あぁ……そう言えば、【収納】はあまり見せびらかすなって言われてたっけ。魔道具作製の授業で作った革袋を、マジックバッグに見せかけるか。先生のアドバイスを受けて、見かけだけはそれっぽいものに仕上げてあるからな。
あとは……医薬品とか虫除けの類か。マーディン先生に少しは教わったけど、まだまだ作れる薬は多くない。多少出費は嵩んでも、出来合いの薬を買い込んでおくべきだろう。……実家に残しておく事も考えて、少し多めに買っておくか。こういうところでケチると、後々碌な事にならんというのがお約束だからな。
……そう言えば、携帯用の調合道具とかもあった方が好いか? ……いや、俺の場合は【収納】があるから、携帯性に拘る必要は無いか。携帯用となるとお高くなるのが普通だからな。今使ってるやつで充分かな? 学園の廃棄備品を貰えたんで助かってるけど……予備として中古品を買っておいた方が良いか。
実家にいた頃は碌な道具が無かったし、作れる薬は限られていたからなぁ……。それを考えると、やはり道具は充実させておいた方が好さそうだな。
他には……衣料品や雨具・テントの類だな。……この辺りは俺じゃ能く判らんな。冒険者ギルドでアドバイスしてもらうか。
そう思いつつ冒険者ギルドに出勤したんだが……
「……え? 廻状を廻しておくって……俺、手配されるんですか?」
サブマスターのミュレルさんが不穏な事を言い出したんで聞き返したら、
「違う違う。ネモ君、休みの間故郷に帰るって言ってたでしょう。それを聞きつけた薬師ギルドと魔導ギルド、皮革ギルドが、街道沿いの町にある支部に通知を出しておくから、良い素材が獲れたら持ち込んでくれ――という事のようですよ」
「……ひょっとして、蛇――ですか?」
「ひょっとしなくてもそうでしょう」
「いや……この前、結構売ったと思うんですけど……」
「火に油を注ぐ結果になっただけみたいですよ? あの時の素材を加工したものが出廻って、却ってその筋の関心を煽ったみたいですね」
「いや……蛇くらい、他の皆さんでも狩れるんじゃ?」
「討伐なら問題無いんですけどね。素材が獲れるように〝狩る〟となると、慣れないうちは難しいでしょう。致死毒持ちも多いですから、ギルドとしても推奨しにくいんですよ」
……何と……そういう事になってたのか。ミュレルさんによると、この後数年は俺の独占が続くんじゃないかという話だ。
まぁ、廻状についての事情は解ったので、今度は俺の方の相談だ。テントや雨具について相談すると、懇切丁寧に教えてくれた。善い人だ。
「それよりネモ君、武器はどうするんですか? ……あの棒を?」
ミュレルさんがそう訊いた途端、なぜかギルド内にいた冒険者たちがざわり、と身動いだんだが……?
「いえ、あれは切断されちゃいましたし、残骸はイズメイル師範がお望みだったので、差し上げておきました」
何でか食い付いてたからなぁ……まぁ、こっちじゃ乳切木なんて珍しいんだろうが……
「イズメイル師範が……そうですか。……では、代わりの武器はどうするんです?」
……と、言われてもなぁ……。こっちの剣ってやつは、どうも慣れないんだよな。前世の日本刀と斬り方が違ってて。慣れてるのはナイフなんだが……リーチが短いのと威力に劣るのが問題だし……ミュレルさんが気にしてるのもそれなんだろうな。けど……乳切木みたいな長柄は、林の中だと取り回しが難しいし……フランキスカみたいな手斧も面白そうだけど、上手く使い熟せる自信は無い。
「……鉈代わりに厚刃のショートソードでも見繕っておきます」
結局、ミュレルさんお薦めの店でショートソードを買っておく事にした。