第一章 学園入学 4.能力測定前日(その2)
~Side ネモ~
《トゥルロロロロロロロロッ♪》
「ぷみ゛ゃっ!?」
不意に呼び出し音みたいなのが鳴り出したため、驚いた俺は思わずガチャのスタートボタンを押していた。あぁ……折角のガチャが……
見れば「通話」の文字が点滅している。え? 俺、変なところ押したか?
能く解らないまま何かに急かされているような気がして、とにかくその文字に指を当てる。と……
『もしもし、通じたかの?』
『え? あれ? ……最高神様?』
なんと、通話の相手は最高神様だった。俺の転生の時お世話になって以来だよな。
『どうしたんです?』
『いや何。お主の転生に際して、ステータス偽装関係のスキルを与え忘れていた事に気が付いての。先程与えておいたから、今後はそれを使って面倒を切り抜けてくれ』
『おぉっ! さすが最高神様! 丁度その事で悩んでいたところだったんですよ』
『そうかそうか、間に合って何よりじゃ。……しかし……ぷっ……くくっ……目つきに似合わず可愛い声じゃったな』
――聞こえてたんかい!
『放っといて下さいよ! 大体、回線を繋ぐ前に聞こえてたんなら、態々電話みたいな形式にする必要無かったんじゃないですか。念話とかで充分だったんじゃないですか?』
『うむ。以前は念話で済ませておったんじゃが、そこは儂らも一応神じゃからな。神からの念話に耐えきれずに、精神が分解した者がおっての』
怖っ!
『そ、それで……この通話、大丈夫なんですか?』
『大丈夫じゃ。これはそういう点を考えての安全設計になっておるでの。神としての立場上、そうそうお主だけに便宜を図るわけにもいかんので、今後儂らから話しかける事はそう無いが、お主の事は気にかけておるのでな……時折』
最後の一言で少しテンションが下がったが、神様だってお忙しいだろうし、時々でも気にかけてくれるなら幸いだと思うべきだろう。
『ありがとうございます。戴いたスキルで何とか切り抜けてみます』
『うむ。ではな』
神様のご厚意に感謝を捧げて、戴いたスキルを確認してみると……
「【悪神の偽装】? ……また、物議を醸しそうなスキル名だな……」
さすがに神様が手ずからお作りになったスキルだけあって、人間業の鑑定なんか余裕で欺けるようだ。う~ん、心強い。ただ……少し気になるのは……
「このスキルを悪い事に使うと悪神様からSPが貰えるって……問題のありそうなスキルだよなぁ……善悪の基準なんて曖昧なものだし……」
ちなみにルーレットで当たったのは、ガチャチケットの三枚綴りだった。クーリングタイムとかに引っかかって【願力】が使えない時でも、このチケットがあればガチャだけは使えるらしい。後々の事を考えたら、悪くない賞品だったと思う。
しかし……【願力】か……ユニークスキルだけあって、こっちも結構癖のあるスキルのような気がするな。あまりこのスキルに頼るのは拙いかもしれん。その時は助かっても、後々説明の付かないスキルとかアイテムとかが増えていくって事だろ?
話のついでに、俺のもう一つのユニークスキルである【眼力】の事にも触れておこう。読んで字の如しというところはあるんだが、その効能は大きく四つに大別できた。
第一は視力強化系の能力だ。遠くのものが能く見えるだけでなく、動体視力や暗視の能力まで高められていた。地味だがありがたい効果だと言える。
第二は目測系の能力、いわゆる目分量だ。以前から目測の精度が高い事には気付いていたが、まさかこれも【眼力】の効果だとは思わなんだ。
第三は看破・鑑定系の能力だ。隠れているものや偽装されているものを【看破】し、それが何なのかを【鑑定】する。それぞれ【看破】・【鑑定】という独立スキルなんだが、俺の【眼力】にはこの二つが包含されている。
それだけでも充分ありがたいんだが、俺が前世地球の知識を持っているせいか、【鑑定】の説明文にもそれが反映されているようだ。説明文にところどころ灰色のカタカナ表記の部分があって、それはこちらの世界にはまだ無い知識や概念のため、便宜的に地球の言葉をそのまま流用している箇所らしい。現地人の【鑑定】にはこんな事は出てこないだろうから、余計な事をうっかり口走らないようにしないとな。
第四は、多分威圧系の能力だ。多分と言ったのは……これ、スキルが発動しているのか、俺の素の目つきにビビってるのか……今一つ判別しにくいんだよなぁ。前世でも、俺が睨んだら同じように卒倒してたし。スキルの発動には魔力を消費するみたいだから、後でステータス値を確認すれば判るのかもしれんが……
説明文を読む限りでは、他に邪眼・魅了・呪縛・石化・破邪などの効果もあるとか書かれているんだが……どれもこれも不用意に使うと面倒な気がする。
ただ……どうもこの【眼力】、パッシブスキルっぽいところがあるみたいなんだよなぁ……。俺が一々考えなくても、その場にあった効果がオートで発揮されるというか……多分親切設計なんだろうが、場合によっては逆に面倒を招きかねん気もする。だがまぁ、危険に陥った時などには重宝するんだろう。相手の魔法の発動を阻害してファンブルさせる事もできるとか書いてあるから、荒事に巻き込まれた場合は大活躍しそうだ。……そんな面倒事に巻き込まれるのは御免だけどな。
まぁ、ともあれ明日の能力鑑定は何とか誤魔化せそうだし、今はそれだけを喜ぼう。