第十三章 初めての採集依頼 1.薬草採集の依頼
~Side ネモ~
その日冒険者ギルドに出勤すると、サブマスターのミュレルさんが一枚の依頼票を持って俺のところにやって来た。
「……これは?」
「見習いとは言えネモ君も一応は冒険者なのですから、偶には受付以外の依頼もこなしておいた方が良いですからね。とは言えさすがに未成年者当てに討伐依頼なんかは……ネモ君なら苦にもしないでしょうが……ギルドとして出せませんから、こういった採集依頼になります」
季節はそろそろ夏。日本と同じくこちらでも食中毒の季節だ。なので今時分になると、薬師たちが共同依頼の形で、胃腸薬の原料となる薬草の採集依頼を出すんだそうだ。料金が安い反面でさしたる危険も無い依頼なので、ギルドは毎年新人冒険者にこの依頼を振り分けているらしいが……
「……薬草の採集依頼だというのに、肝心の薬草の採り方がなってないんですよ。例年使いものにならないものが多く出て、そういうのは依頼達成とは認められないわけですが……自分の未熟は棚に上げて、文句ばかり言ってくる始末でしてね」
「はぁ……でもサブマス、俺はこの薬草の事を知りませんよ?」
腹痛の薬草なら故郷でも採っていたが、生憎とその薬草はこっち方面には生えてない。依頼された薬草の事は能く知らないから、期待に応える事ができるかどうかは自信が無い。
「あぁ、それは大丈夫です。これは採集依頼という形になってはいますが、護衛依頼の面も含むんですよ。毎年劣悪な品質のものを持ち込まれる薬師たちが業を煮やしたらしくて、ここ二、三年は彼らが自力で採りに行くのを手伝うという形になっているんです。なので、詳しい事はその薬師が指導してくれる筈です」
見習いの俺は護衛や討伐の依頼は受けられないが、これは形式上は採集補助となっているため、俺が受けても問題は無いらしい。ついでにギルドの評価としては、雀の涙ほどだが護衛依頼の実績にも加味されるのだそうだ。
だとしたら、これは美味しい話だ。薬草の事も憶えられるというなら、俺としては断る理由が無い。
了承の言葉を口にしようとしたところで、俺は依頼者の名前に気が付いた。
・・・・・・・・
「マーディン先生も依頼人のお一人だったんですね」
「夏の食中毒は、薬師の一人として見過ごせない問題だからね」
調薬の補習授業をしてもらう条件として、俺はマーディン先生の薬草採集に何度か同行している。薬草の生育状況なんかも教えてもらえるし、俺としては課外実習のような感じなんだが、俺の【収納】目当ての先生としては、幾分引け目があるようだ。今回の件にしても、態々冒険者ギルドに依頼など出さなくても、俺に来いと言えば済む話だったろうに。
「いや、場所がね……ちょっと……」
「場所、ですか?」
「前にディオニクスが出た場所に、少し近いのだよ。ネモ君も一応は学生だし、学園の教官としてあまりそういう場所に生徒を連れて行くのはね、ちょっとね……」
一応は俺の立場に配慮してくれたようだ。
ちなみに最近判ったんだが、マーディン先生、かなり几帳面な性格らしい。公私の違いをきちっと弁える主義のようで、俺の事も授業や補習の時はネモと呼び捨てなのに、薬草採集の時にはネモ君と君付けで呼ぶんだよな。
……うん……ツンデレとかじゃないと思う……多分……
「だがまぁ、冒険者ギルドが君を寄越したという事なら問題はあるまい。当てにさせてもらうよ、冒険者君」
「冒険者とは言っても、まだ見習いなんですけどね」
拙作「ぼくたちのマヨヒガ」、本日21時頃更新の予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。