第十一章 骨と皮 2.感想
少し短いです。
~Side ドルシラ~
ネモさんのお弁当を最初に見た時は、幾ら何でもアレは無いと思いましたけれど……浅はかでした。校外実習の時の事を思い出すべきだったのです。
仮にも魔導学園生徒の私たちが代わり映えのしないランチバスケットなど持ち込んだ中で、独りネモさんだけが魔法を駆使しての焼き肉という大技を繰り出してのけ、格の違いを見せ付けたのでした。
そのネモさんが、【調理】スキル持ちのネモさんが、態々作って持ってきたというお弁当が、見かけどおりのものである筈が無かったのです。
ただのお魚の骨と皮とばかり見えたものは、戴いてみると何れも侮りがたい美味珍味でした。
皮はパリッとした食感で香ばしく、その後に口の中に広がる脂の旨味……今までに食べた事の無い味わいでした。……ネモさんは当然のように【収納】からお弁当を取り出していましたし……いえ、確かに焼きたて炙りたては美味しかったですけど……
骨を焼いたものも、頭の骨を薄く切って酢の物に仕立てたものも、珍味としか言えない味わいでした。お魚の骨を食べると聞いて、最初は珍奇な事のように思えたのですけど――
「自分の身体に骨がある以上、骨を造る材料は必要な筈で、だったら骨を食べる事のどこがおかしいんだ?」
――と言われると反論ができませんでした。……今度実家に帰ったら、料理長と話してみようと思います。
ネモさんのおかずは何れも美味でしたが、それらの料理の味わいを引き立てていたのが、初めて目にする白い雑穀でした。それ自体には何の味付けもされていませんのに、いえ、何の味付けもされていないからこそ、どのおかずとも無理のない調和を示し、しかもじっくりと噛んでいると仄かな甘味を感じる……。パンですとどうしても喉がぱさつくため、スープと一緒に流し込むような事になるのですが、この雑穀はそういった事がありませんでした。
これは是非とも入手したいと思ったのですけれど、野生の雑穀で入手できる量が少ないため、他所へ廻すゆとりが無いと断られてしまいました。返す返すも残念です。……うちの領地にも生えていないかどうか、後でお父様に確かめなくてはいけませんわね。
……つい夢中になってネモさんのお弁当を食べ尽くしてしまったので、代わりに私のランチボックスをお渡ししたのですけど……ネモさんは物足りなさそうでしたね。
……言い換えると、いつも食べているよりも多くの量を食べてしまったという事なのですが……大丈夫です、きっと……
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~Side ネモ~
結局、今日はお嬢と弁当を交換したような形になったわけだが……後になって思い出したよ。
これって確か、ナイジェルもしくはレベッカがお嬢を攻略するためのフラグじゃなかったか?
レベッカでお嬢を攻略できるという百合々々しい展開が、一部ユーザーに受けてた筈だ。前世の妹が狂喜してたから憶えてる。……いや、憶えていたつもりだったが……綺麗さっぱり忘れていたな……
お嬢相手に妙なフラグを立てるのは、先々の事を考えると命取りになりかねんのだが……今日のお嬢の様子を見る限り、そんなフラグは立たなかったみたいだな。
……と言うか……お嬢、鮭の骨と皮の方に食い付いてなかったか? まぁ、何と言ってもまだ十二歳なんだし……花より団子ってのも解らなくはないが……いや、これはこれで妙なフラグになったりしないよな?