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眼力無双~目つきで苦労する異世界転生。平穏なモブ生活への道は遠く~  作者: 唖鳴蝉
第一部 一年生一学期~裏腹な新生活の始まり~
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第十章 校外実習 2.班員の指導

 ~Side ネモ~


 ……という残念な事情で実習班の班長なるものに就任する事になった俺は、諦めて溜息を()きつつ実習地に向かっているわけだ。実習の手引きを斜め読みしながら、観察のポイントなどをあれこれ考えている時に気が付いた。


 ――学園内に生えている草木って、何気に有用植物が多くないか?


 ……そう言えばこの学園って、元々は砦か何かの跡地を再利用したとか言ってたような……なるほど、非常時の食糧というわけだな。


「いや……そういうものも無いとは言わんが……大半は教材として植えられているんだがね……」

「あ、先生」


 俺の勘違いを訂正してくれたのは、生物担当のダンウィード先生だった。他の生徒が挨拶(あいさつ)するのに応えてから、先生は改めて俺の方に向き直る。


「少々人選が……その……特殊な班ができたと聞いてやって来たんだが……」


 先生、正直にあぶれ者部隊と言ってくれていいんですよ?


「……班長のネモ君は、野草の(たぐい)には詳しいのかね?」

「まぁ、故郷じゃ使えそうなものは利用してましたからね。主に食材としてですが、手軽な薬草も幾つかは」


 そう言って故郷で使っていた薬草の名前を挙げると、先生は満足げに(うなず)いた。


「それだけ知っているなら、(むし)ろこの班は安心できそうだ。ネモ君なら、このメンバーでも()(おく)れする事はないだろう」

「学園内では身分に(かか)わらず生徒は平等――というのが建前(たてまえ)じゃなかったんですか?」

「建前と本音は違うのだよ。貴族や王族を前にしても臆せず振る舞えるネモ君は、学園の精神を体現していると言ってもいい」


 得がたい人材だ――と先生は言ってくれますけど、それって面倒を押し付けるのに都合が好いって事じゃないんですか? 思わずジト目になってしまった俺を、一体誰が責められようか。



・・・・・・・・



 ダンウィード先生の簡単な説明の後で、美術担当のマローン先生から、今日のスケッチについての注意があった。スケッチした植物は持ち帰って押し葉標本にして、次回の授業でそれを精密にスケッチするんだそうだ。なので本日のスケッチでは、標本からは得られない情報、すなわち生育状況や生えている時の状態などが判るようなスケッチを提出するように言われた。……明示された目的に合ったスケッチができるかどうか、要はそれを採点するんだろうな。


 先生方の説明と注意が終わり、各班ごとに「実習の手引き」に載っている植物を探しに移動したわけだが……


「はぁ……中々見つからないものですわね」

「……お嬢、そう言う足下(あしもと)にゼムロシアが生えてるの、気付いてるか?」

「えっ? どこですの!?」

「右足の爪先だよ。小さな花が咲いてるだろうが」

「あら、これですの。……中々可憐な花ですのね」


 ゼムロシアは故郷では()く見かけた湿地性の多年草だが、ここでも水路の周りに生えていた。根が(せき)止めになるので()く採っていたが、服用量が多過ぎると(おう)()痙攣(けいれん)などを引き起こすので、注意が必要な薬草でもある。

 ……というような事を簡単に説明した後、スケッチに移ったお嬢を放って置いて、俺はアスランたちに声をかけた。この主従二人、さっきからあちこちを見回すばかりでスケッチしようという気配も見えないんだが……一体何を探してる?


「……おぃリンドローム、エル、さっきからキョロキョロと何を探してる?」

「あぁ、ネモ君か……折角だから大物をと思って、ジュヨウが見つからないかと探してるんだけど」

「ジュヨウだぁ?」


 ジュヨウというのはヘインの根に寄生する寄生植物の一種で、強壮薬として珍重されるほか、魔術の素材にもなる。確かに大物にゃ違いないが……そんな稀少な植物が、こんな場所に生えているわきゃないだろうが。第一、寄主であるヘインの木は湿地に生えるんだぞ?


「? この辺りは充分に湿ってるじゃないか?」


 ……あぁ……エルは乾燥地の出身だもんな。こんな場所でも湿地に思えるのか。


「いや、湿地ってのはこんなんじゃないからな。足を踏み入れたらズブズブと埋まっていく感じで……」

「――っ! 人を呑み込むような危険な場所なのかっ!?」

「いや……まぁ、そんな場所も無いとは言わんが……大半はそこまで深くはないな。……実際に見なきゃピンとこんかもしれんが、少なくともヘインはこんな場所にゃ生えやしねぇよ」


 ……故郷の沼地で見つけた事はあったがな。下手に取り出すと騒ぎになりそうなんで、今のところ俺の【収納】の肥やしになってる。こいつらに見せるつもりも勿論無い。


「だけど……この手引きには載ってるんだけど……?」

「そりゃ先生のお茶目だな。他にもこの辺りに生えてないようなものが、幾つか載ってるぞ」


 手引きに頼らず予習しておけば引っ掛からない筈だと言ったら、アスランとエルだけでなく、いつの間にか傍に来ていたジュリアンとコンラートまで目を()らした。……大丈夫なのか? この班。


「……欲をかかずに大人しく、そこに生えてるパイリットでもスケッチしとけ」


 パイリットは日当たりの好い草地に生える一年草で、花の部分に殺虫成分を含み、(むし)()けに効果がある。七分~八分咲きの花が一番良いんだが、残念ながらもう時期は過ぎてるな。けど、幾つかはまだ収穫できそうだし、後で少し集めておくか。


 さて……こいつらの面倒を見終わったところで、俺も適当なのを()(つくろ)って……ほほぅ、ハイラにミルトンベリーなんてものが生えてるじゃないか。


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