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眼力無双~目つきで苦労する異世界転生。平穏なモブ生活への道は遠く~  作者: 唖鳴蝉
第一部 一年生一学期~裏腹な新生活の始まり~
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第九章 試験勉強 3.礼法

 ~Side エルメイン~


 試験に備えて勉強会をする事になった。試験は苦手だから、勉強会は助かる。ネモというやつも平民の筈なのに、ジュリアン様やマヴェル様より試験に慣れているようだ。〝過去問〟とかいう方法を教えてくれたので、助かっている。


 文章や数を憶えるだけの科目はともかく、礼法というのは解らない。俺はこの国の生まれじゃないから無理だと諦めていたら、ネモが簡単に(まと)めてくれた。


 〝マナーの基本は相手に不快感を与えない事〟――だそうだ。解り易い。


 決まり切った様式に(こだわ)るよりも、相手が何を好しとし、何を苦手としているのかを見極めて、不快感を与えないように動けばいいんだそうだ。それさえ解っていれば、試験なんか気にするなと言われた。なるほどと思う。

 ……けど、嫌なやつを()り気無く不愉快な目に合わせるのもマナーの暗黒面だというのは、正直言ってどうなんだろう。マヴェル様やレンフォール様は深く(うなず)いていらしたが。……アスラン様は困ったようなお顔で、何もおっしゃらなかった。


 ――ネモから教わって納得できた事が、もう一つある。


 マナーは国とか文化とかで色々違うそうで、その例として人と人との距離感――対人距離というらしい――を挙げて説明してくれた。他人と向き合った時に適切と感じる距離は、国や部族によって違うんだそうだ。ある部族の者が普通だと思う距離は、別の部族の者から見たら近過ぎて()()れしく感じられ、また別の部族の者からは遠過ぎて他人行儀に感じられるのだと言う。

 アスラン様も初めて聞いたようで驚いていらしたが、俺には思い当たる節があった。初めてアスラン様のお国に行った時、礼儀がなっていないと叱られたんだ。しばらく怒られた後で、貴族にはあまり近寄らないようにすればいいんだと思っていたんだが……実際のところは少し違っていたらしい。


 そういうものだと知って他人の表情や態度を見ていれば、何となく判ってくる筈だとネモは言っていた。言われてみると何となくそんな気がする。


 冒険者ギルドでも、新人冒険者向けに簡単なマナー講座があるそうで、基本的な事だけ教えてもらった。マヴェル様に言わせると最低限の知識らしいが、これだけでも知っているといないとでは大違いなんだとか。とりあえずこれだけは憶えようと思う。


 ネモというやつは、色々おかしなところはあるが、悪いやつじゃないようだ。



 ********



 ~Side ドルシラ~


 礼法についてのネモさんの意見には、大いに学ぶところがありました。形骸化した形式を金科玉条と墨守(ぼくしゅ)するよりも、相手が嫌がるように……ではなく、相手を不快にさせないように振る舞う事が重要という意見には、同意せざるを得ません。


 その例として、人と人との距離感が国や部族ごとに異なるという事を――これは以前にも少し話題に出ましたけど、今回はもう少し詳しく――教えて戴きました。言われてみれば異国の商人と会った時に、妙に()()れしい態度に不快感を抱いたものでしたが……あれはあの商人にとっては当たり前の事だったのでしょう。遠ざけたのは間違っていた……少なくとも浅慮であったと、今は思います。


 そしてそれ以上に、二種類の鳥についてのお話には戦慄させられました。種類の違う二種類の鳥を同じ檻に入れておくと争いを始めるそうですが、一方の種類が負けを悟って地に伏せて謝ろうとしても、もう一方の種類にはその謝り方が通じないため、ますますいきり立って攻撃するという……他人事ではないような気もします。


 ネモさんはその他に、互いに舌を出すのが挨拶(あいさつ)の国ですとか、子供の頭を撫でるのが呪いと見做(みな)される国の事なども話してくれました。……どこでそういう知識を知ったのかとも思いますが……いえ、仮令(たとえ)これらの全てが法螺(ほら)話であったとしても、自分たちだけの物差しで他人を計るなという教訓は重要です。


 ……この話はお父さまにもお報せした方が(よろ)しいですわね。

二種類の鳥の争いの逸話は、コンラート・ローレンツがその著書「ソロモンの指輪」の中で紹介している、孔雀と七面鳥の話です。


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― 新着の感想 ―
ローレンツ博士の『ソロモンの指輪』は、生き物好き(特に鳥好き)には必見の名著ですよね! ネモ君は前世で、カレル・チャペックの『園芸家12ヶ月』も読んでそうですね~(苦笑)
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