第九章 試験勉強 2.勉強会の提案
~Side ジュリアン~
色々と謎の多い――と言うか、おかしなところしかない――ネモ君の事を少しでも知りたいと思って、試験前の勉強会の事を提案してみたんだけど……ネモ君はあっさりと承知してくれた。彼に利点があるのは勿論確かなんだが、どちらかと言うと僕たちの好奇心が先行した形だ。ネモ君はその事に気付いているのかいないのか、ともあれ勉強会が開かれる事になった。
……考えてみれば、コンラート以外の級友と一緒に試験勉強をするなどという体験は、僕にとっても初めてだ。多分だけど、アスラン殿下も似たようなものじゃないだろうか。そう考える勉強会が楽しみになってくる……試験ではなくて勉強会が――だけど。
勉強会の初日は放課後の図書室に集まって、どの科目をどういう風に勉強すべきかの検討から始めた。ネモ君は冒険者ギルドでの仕事があるから、あまり遅くまでは残れないんだそうだ。親の脛を囓っている我が身が恥ずかしく思えたが、当のネモ君から心得違いだと窘められた――王族が苦学生の真似をする事に何の意味があるのか、王族は王族としての苦労をしろと。
……ネモ君は本当に僕と同い年なのか、時々疑わしく思える時がある。爺に説教されているような感じなんだけど……。弟や妹の面倒を見ていたからだろうとネモ君は言っているけど、兄上や姉上よりもしっかりしている気がする。……それとも……兄上や姉上が子供っぽいんだろうか……?
……少し不安になってきたので、後で爺に確かめておこう。爺も武闘会での活躍を聞いてからは、ネモ君に興味を持ったようだ。
……そんなネモ君だけに、試験勉強についても目の付けどころが僕たちとは一味違っていた。
「今回の試験科目についてだが、過去問とかは手に入るのか?」
「過去……問……?」
――って何だろうと思っていたら、
「授業担当者が変わっていなければ、教えてる内容や進度も毎年そう変わらんだろう。去年以前の試験問題が……そう、五年分ほども手に入れば、試験の対策も立て易いだろうが」
僕は呆気にとられたけど、他の皆も同じだったみたいだ。……そんな事、今まで考えもしなかった。兄上からもそんな事は聞かなかったし……
「――ま、待てネモ。試験とは飽くまで己の学力を確かめ、至らぬ部分を補うためのものだ。そのような不正な手段を看過するわけにはいかん」
案の定コンラートが抗議したんだけど……
「あぁ? どこが不正だ? 試験でズルをしようってんじゃないんだぞ? 勉強時間を効率的に使うために、試験のポイントを調べようっていうだけじゃねぇか」
「し……しかし、試験とは独力で対処すべきものであって、妄りに他者の力を頼るのは……」
「おぃマヴェル、正気で言ってんのか? お前の言う『他者』には、教官や先輩の教えは含まれんのか? 基準が曖昧かつ恣意的に過ぎるだろうが」
「し、しかし……」
「あのなマヴェル、他の連中はともかく、末は宰相かってお前がそんなみみっちい考え方でどうする。試験ってのは己との戦いであるのと同時に、教官との知恵比べでもあるんだ。お前、戦や交渉の前に、交戦相手や交渉相手の情報を調べずに本番に臨め――なんて担当者に命じるつもりか? そんな事してたら国が滅ぶぞ?」
「う……」
「俺は持てる力の全てを尽くし、万全の努力と準備をもって試験に臨むつもりだ。そこに疚しいところは一点たりとも無い!」
コンラートが正論――正論だと思う……多分――で押し切られるのを見たのは久しぶりだった。
結局、上級生との伝手がある僕たちとレンフォール嬢が、過去問とやらの入手を請け負う事になった。尤も、下手に上級生に借りを作ると後々面倒な事になるから、僕は兄上や姉上たちに問い合わせるだけに留めたけど。
コンラートの話では、こんな事を考えたネモ君の事を面白がった先輩たちから、色々と訊ねられたそうだ。今後の試験勉強の参考にするとも言ってたそうだから、ネモ君方式の試験勉強が広まるのも早いかもしれない。
……拙かったら先生たちが何か言ってくるだろう。