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幕 間 ドルシラ探味録 1.お嬢さまのお気に入り(その1)

 ~No-Side~


 幼少の(みぎり)よりその美貌と才智、そして魔法の才によって令名の高かったレンフォール公爵家の息女ドルシラ。

 その彼女が春の休みに領都の屋敷へ戻った時、真っ先に行なったのは何かと言うと、



「料理長、頼んでいたものは見つかりまして?」



 ……ネモによる餌付k……ではなく、(おご)りを通してその味を憶えた幻の穀物(こめ)。その探索結果を確認する事であった。

 ただし彼女の期待と希望に反して、領都邸の料理長から返って来た答えは、



「……申し訳ありません。八方手を尽くして調べさせてはいるのですが……」



 ――という、(はなは)だ意に沿わぬものであった。


 (もっと)もレンフォール公爵家の令嬢たる者、これくらいで腹を立てるほど狭量では務まらない。何せ王立魔導学園の教授陣に問い合わせてみても、初等部から中等部、果ては高等部に至るまで、口を揃えたように〝知らない〟という回答しか返って来なかったのだ。

 そんな謎の穀物を常食しているネモは一体何者なのか……という疑問が沸々(ふつふつ)と湧いてくるが、今更そんな事を言っても始まらない。王都最大、いやさ王国始まって以来の異端児にして(エニグマ)の申し子・ネモのやらかす事に、一々目くじら立てていては、魔導学園一年Aクラスの生徒などやってられないのである。


 なのでこの時のドルシラも、敢えて残念そうな素振りは見せず――見せたら料理長が(しょ)()(かえ)るので――話題を今一つの方に持って行った。彼女的には幻の穀物(こめ)に負けず劣らず重要な食材――〝鮭の皮〟へと。

 既に王都邸の料理長が、その正体に大凡(おおよそ)の目鼻を付けてはいたものの、実際の入手は領都の方で取り仕切っていたのである。



「そちらの方は遺漏無く。既に幾つか買い揃えてございます」



 ――この答えはドルシラを(いた)く喜ばせた。


 オルラント王国屈指の大貴族レンフォール公爵家の令嬢である彼女をそこまで(とりこ)にし、一方でネモからは〝鮭擬(さけもど)き〟と軽く扱われているその魚の名――現地名――は、



「シャモンと申しまして、秋から冬にかけて沖合に群れを成して現れる魚です。漁期にはそれなりの量が獲れるのですが、塩漬けにしたものが冬の貯蔵食として使われる事もあり、ほぼ全てが沿岸域から湖水地方までの範囲で消費されてしまいます。王都では中々お目に留まる事はございますまい」



 このシャモン、地球の(シャケ)とほぼ同じ種類で、(サーモン)と同様に母川回帰の習性を持つのだが、生憎(あいにく)とオルラント王国にはシャモンの回帰する母川が無い――あるのはもう少し北方になる――ため、それほど馴染(なじ)みのある食材ではなかったりする。ただ、料理長の言うように、産卵期が近付くと回遊する魚群が沖合を通るため、沿岸部では網での漁獲がなされている。

 どちらかと言うと庶民向けの魚であり、その大半が沿岸~湖水地方の範囲で消費されてしまうため、王都まで届く分は少なくなり、輸送コストと稀少性から富裕層向けの食材となっているのは皮肉である。



「皮だけを別扱いにして食べる風習は無いようですが、(あぶ)ったものは確かに珍味と言えない事もありませんですな。(いささ)(あぶら)が強過ぎる気もいたしましたが」



 その強い(あぶら)()(しっか)りと受け止めて、皮の持つ風味を充分に引き出すのが、あの(・・)幻の穀物(こめ)なのだが……と、再び未練が湧き上がりそうになるのを意思の力で押さえ付け、そのまま何食わぬ顔で料理長の報告に耳を傾ける。

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