第八章 五月祭 5.その頃のお嬢様たち
少し短いです。
~Side フェリシア・レンフォール~
今日から五月祭。ひさしぶりにお帰りになったドルシラお姉さまと一緒に、いろんなものを見てまわることにしました。なのに、せっかくお帰りになったお姉さまは、おともの方とばかり話しこんでいらっしゃいます。なんでもぶとう会でものすごく強かった男の人がいたらしくて、それがお姉さまと同じクラスの人なんだそうです。おともの方はそれをきいてすっかりコウフンなさってしまい、お姉さまもすこし押されぎみでした。
〝ぶとう会で強かった〟というのはどういうことだろうと思っていたのですけど、どうもダンスの会ではないようです。うちの兵隊さんたちがときどきやっているようなしあいと同じもののようです。お姉さまみたいなリョウケのレイジョウが、そういうサツバツとしたものにきょうみを持たれるのは、あまりよろしくない気がします。
少なくとも、一ヵ月ぶりに会った妹をさしおいて熱中するわだいではないと思います。
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~Side ドルシラ・レンフォール~
魔導学園で寮生活を始めてから一ヵ月余り。時折実家には帰っていましたが、纏まった休みというのは初めてでした。久しぶりに会った妹のフェリシアが甘えてくるのは嬉しいのですけど、あの子ももう八歳、もう少し大人びてくれてもいいのではないかと思う反面、子供は子供らしくあるべしという気もしています。ネモさんでしたらきっと後者ですわね。
そのネモさんの事ですけど、今日のお祭り見物の護衛を務める一人が、奇しくもあのエキシヴィジョンマッチを見ていたようです。ネモさんが私の同級生だと知ると、物凄い勢いで食い付いてきました。……えぇ、少し引くぐらい。護衛班長に拳骨と大目玉を頂戴していましたけど……「対人距離」についてネモさんからの教えを受けた以上、軽々しく評価を下すのは無しですわね。班長が充分に叱責してくれたようですし、主家の令嬢である私の「対人距離」を尊重して戴けるのなら、今日のところはこれ以上咎めは致しませんわよ?
その護衛の方からは、色々と面白い事が聞けました。あの試合、私にはネモさんが大陸七剣の一人と互角に渡り合っているとしか見えなかったのですけれど、護衛の方に言わせるとそれだけでは無かったそうです。剣術・棒術だけでなく、二人とも体術まで駆使しての伯仲した試合になっていたそうです。見る人が見れば違うものですわね。……そう言えば、バルトラン様もそんな事を言っておいでだったような気がしますけれど……イズメイル師範のお宅でネモさんに手首を極められて悲鳴を上げていた姿の印象が強くて、他の事はすべて上書きされてしまったようです。……仕方ありませんわよね?
護衛の方からは、他にも面白い事が聞けました。何でも、騎士団や騎士学園がネモさんに食指を動かしているそうです。……この事はお父さまに一言云っておいた方が宜しいですわね。
あと……フェリシア? 話についていけないからと言って、あからさまに不機嫌そうな顔をするものではなくってよ? そういう場合は然り気無く会話に参加して、自分にも理解できる内容に話題を誘導するものです。後で少し教えて差し上げなくてはね。
……何だかネモさんみたいな言い草になってしまいましたけれど、毒されているわけではありませんわよね?
ドルシラの言う「対人距離」については次章で。