第一章 学園入学 2.クラス分け
~Side ネモ~
王立魔導学園では、生徒は能力や適性によってA~Dのクラスに分けられる。ぶっちゃけAクラスが上級貴族、Dクラスが庶民と思えばいい。クラス分けは飽くまで指導上の便宜――各々が受けた学業の進度が違うため――を考慮したもので、生徒の待遇がクラスによって左右される事は無い。例えば、病欠などで学業の進度が遅れている場合には、同級生とは違うクラスに廻される事もあるが、卒業時には同程度の力量となれるように指導する。……というのが学園側の公式説明だが、それが事実かどうかはともかく、表立って異論を呈する者はいない。出身の違う生徒を同じクラスにした場合、色々な軋轢が生じるのは確実だ。そういった面倒を回避する上でも、出身や境遇が似通った者は一クラスに纏めるのが有効だからな。尤も能力によっては、平民出身でもCクラスやBクラスに組み込まれる事もあるらしいけどな。
ちなみにユニークスキル持ちは例外で、往々にしてスキルの影響力が大きいため、問答無用でAクラスに組み込まれるのだという。まだユニークスキル持ちと決まったわけじゃないので、平民の俺は放って置けばDクラスに入れられる。
――だが! それは何としても避けなきゃならん! なぜならDクラスには、問題の主人公たちがぞろぞろ纏まる筈なんだ!
まず、平民出身の成り上がり系主人公ナイジェル。貴族階級に強い反感を持っている屈折したキャラだ。関わり合ったが最後、面倒な事態に巻き込まれる予感しかしない。
他にもDクラスには、ナイジェルルートの正ヒロインであるクラリスの他、玉の輿を狙う平民娘レベッカ、担任のくせして条件次第で攻略可能になる隠しキャラのディロン・モートン先生と、面倒な連中が揃っている。それだけじゃなく、Dクラスが中心となって起こるイベントも幾つかあった筈だ。それも結構ヤバめのやつが。
というわけで、俺はクラス分けの試験でそこそこの点を取って、主人公たちがいないCクラス入りを目指さなきゃならん。主役級が揃っているAクラスは実質お貴族様方の御用達なので、俺が編入される心配は無い。なので安心して試験を頑張ればいいわけだ。
……この学園の試験って、一応前世の日本ではそこそこの進学校――高校――で、そこそこの成績を取っていた俺から見ると拍子抜けと言うか……頑張り過ぎて怪しまれないようにする方が大変なレベルなんだよな。地理や歴史はちゃんと勉強しないと駄目だが、それも所詮は小中学生レベルだし。魔法についてはまだ授業が始まっていないため、実技試験は行なわれない。
と言うわけで、Dクラスを回避するだけならそれほど難しくはない筈。懸念があるとすれば、頑張り過ぎてBクラスに編入された場合だが……あそこには戦闘狂の気があるレオ・バルトランって貴族の三男坊と、本編の正ヒロインであるアグネスっていう聖女候補がいるんだよなぁ……まぁ、バリバリの庶民である俺がBクラスに組み込まれる危険性は低いと思うが……
頼むぞ、面接官の先生! どうか俺をCクラスに!
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~Sie ライサンダー学園長~
――何という気迫か。このシンフォニック・ライサンダー、王立魔導学園の学園長としてこれまで多くの学生を面接してきたが、これほど大きな気を放つ生徒に会った事は嘗て無い。それも、大声で喚き立てるような迫力ではなく、どっしりと落ち着いた威厳すら感じさせる……
まだ発現してはいないようだが、間違い無くユニークスキル持ちじゃろう。それも近来に無い……いや、事によると王国の歴史のなかでも十指に入る力量やもしれん。CクラスやDクラスに収まるような器量ではない。
……じゃと言うてBクラスにすると、レオ・バルトラン辺りが絡んできそうじゃな。あの子ものぅ……些か好戦的の度が過ぎておる。この少年、ネモというそうじゃが、この子とバルトランを同じ組にすると、最悪二人ともが傷付く危険性がある。可惜有為な人材が潰し合うような真似は避けたい。
そうなるとAクラスに入れるしかないが……ふむ……いまだユニークスキルが発現しておらぬ少年に対するには破格の処遇じゃが……見たところ問題を起こしそうな子供ではなし、構わんじゃろう。この子がユニークスキル持ちなら、今のうちに上流階級との付き合い方を憶えておいた方が本人のためという事もある。
……よし!
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~Side ネモ~
《オルラント王立魔導学園 一年Aクラス ネモ》
……俺、頑張ったんだよ……?