第七十五章 弟妹英才教育 1.現状把握
~Side ネモ~
一夜明けた翌朝になると、充分な昼寝と夜更かし厳禁のお蔭で、弟妹たちの体調も戻ったみたいだった。さて、それじゃ魔法修行の成果ってやつを見せてもらうとするか。
まぁ大雑把な進捗状況についちゃ、帰宅した日の晩に父さん母さんや祖父ちゃん祖母ちゃんから聞かされてはいるんだが、やっぱりこういうのは実際に見てみなくちゃな。
聞いた限りじゃ弟妹たちは、属性魔法の修行は基本の基本だけにして、魔力操作の習熟に傾注してるそうだ。ちゃんと指示を聞いてくれてたみたいで、お兄ちゃんは嬉しいぞ。
いやまぁ……大抵の事は【生活魔法】でできるんで、焦って憶える理由が無い……っていうのもあるんだろうが。
(「どっちかと言うと、お兄ちゃんの真似をしたい――っていうのが本音なんじゃないかと思うけど」)
(「まぁ、ネモの【生活魔法】はのぉ……気を惹かれるのも無理はないっちゅうか」)
(「学園からも口外厳禁のお申し付けが来たくらいだからねぇ……」)
……例によって親たちが何か密談してるみたいだが……ま、必要ならはっきり言ってくるだろうから、俺に関係した話じゃないって事だよな。
で――【生活魔法】の腕はどの程度上がったんだ?
そう聞いてやったら、弟妹たちは二人して顔を見合わせた。……進捗が思わしくないってのか?
「まだお兄ちゃまみたいに、まものをやきころすとかできないの……」
「ぼくも……せいぜいネズミくらいで……」
……いや、素捷いネズミを【着火】で焼き殺すって大概だからな?
レオ辺りが聞いたら錯乱するかもしれん。あいつは魔力頼みのゴリ押しで、精密狙撃とかは不得手だった筈だ。お嬢はどっちも卒無く熟すんだが。
……どうも弟妹たちの中で、【生活魔法】の株価がインフレを起こしてるような気がする。【生活魔法】ってのは元々〝生活〟を便利にするための魔法であって、魔獣を討伐するようなもんじゃない……って、学園で散々言われたんだよな。クラスの連中だけじゃなく、先生方まで口を揃えて。
ま、明確に禁止されわけじゃないから問題無い……いや、そうじゃなくて……生活魔法を属性魔法の上位互換みたいに考えてんじゃねぇだろうな?
……ひょっとして、これはあれか? 俺が【生活魔法】で色々やらかしたのが原因か? 俺の場合は属性魔法を憶える前で、他に選択肢が無かっただけなんだが……
いやまぁ実際に、威力と射程の点さえクリアーできりゃ、発動も早いし扱い易いんだよな【生活魔法】。そのために魔力量と魔力操作の向上を狙っているわけだが。
だからといって、属性魔法の修行を疎かにしていいわけじゃない。わけじゃないんだが……「祝福の儀」も済ませてないガキんちょが属性魔法を使いまくるなんて、ご近所の目が煩いしな。大っぴらに修行させるわけにもいかん。
結局は【生活魔法】一択って事になっちまうのか……
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母さんたちにも確認してみたんだが、五属性魔法で比較的修行が進んでいるのは水魔法と土魔法で、あとはそこまで修行が進んでいない……と言うか、練習の機会自体があまり無いらしい。
で、修行が進んでる方だが……まず水魔法は水汲みとかに重宝するし、湖水地方だから操る水にも不足しないしで、修行の機会が多いかららしい。
土魔法も畑仕事とか、地面の凸凹を平らに均すのに使われてるそうだ。あとは雨上がりの泥濘を、水魔法と一緒に処理したりもな。
まぁ、言うても〝扱き使われてる〟ってほどじゃなくて、飽くまで〝お手伝い〟の範疇で、だそうだが。
ところが、この二つに較べて残りの魔法は、あまり使う事が無いらしい。
まず火魔法だが……単に火を着けるだけなら、〝火を生み出してそれを対象に移す〟という二段階を要する【火魔法】よりも、〝対象を直接燃やす〟【着火】の方がずっと早い。結果、どうしても【着火】を使う事が多くなるらしい。あと、火魔法を外で練習するのは危険だし、ご近所の目ってもんもあるしな。
風魔法は見えにくいから、外で練習するのもはできなくはないが、実生活で使う場面ってのが少ないんだ。強いて言えば洗濯物を乾かすぐらいだが、それだって干し場にぼーっと突っ立ってりゃ可怪しいと思われる。
木魔法に至っては、一度畑を雑草だらけにしてからというもの、母さんから使用厳禁を言い渡されているそうだ。練習なんかできっこない。
……こりゃ、少し考えた方が良さそうだな。




