第七十四章 帰省早々 3.強者vs強(したた)か者(その1)
~Side ネモ~
水産ギルドに挨拶に出向いたら、ギルド長から会ってほしい相手がいると紹介された。そこはかとなく嫌な予感がしたんだが、ギルド長直々に宜しく頼むと言われちゃ断りづらい。
気の進まないまま渋々と、相手が泊まっているという宿に出向くと……案の定。待ち構えてたのはハラディンじゃねぇか。アスランの御用商人の。
一体どうすりゃいいんだ? こんな展開、ゲームのストーリーにゃ無かったぞ?
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~Side ハラディン~
大水蛇の素材を求めてタイダル湖畔の水産ギルドに赴いたところ、〝ものが大水蛇狙いなら、丁度凄腕の狩人が帰省する頃合いだ〟と聞かされて、これ幸いと紹介してもらう事にした。その名前が「ネモ」だというのには驚いたが……予て甥っ子から聞かされていた怪人と同一人物だろうか? 子供とは思えぬ存在感の持ち主だという話だが……
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「ギルド長から紹介されて来た者ですが」
――そう言って自分の目の前に現れたのは、確かに〝子供とは思えぬ存在感〟……いや、威圧感を放つ人物だった。
……エルのやつめ。それならそうと、はっきり言ってくれればいいものを。……いや、それは確かに、子供の〝威圧感〟だなどと言われても、まともに取り合わなかったような気もするが……
まずこの少年――「少年」でいいんだよな?――は、背丈からして大人並みに高い。自分も背はそこまで高い方ではないが、その自分と目線がほぼ同じ……いや、少し高いくらいだろう。
その彼の頭上に鎮座しているスライムからも挨拶を受けたのだが……自分より高い位置からスライムに挨拶されるというのは……これはこれで貴重な体験だと思っておこう。
その全身から放たれる強者のオーラ――気のせいか、スライムからも同様のオーラが放たれているような気もするが――は扨措くとしても、前髪の間から覗く眼……あれが曲者だ。
単に目付きが悪いとか鋭いとか……そんな月並みな言葉で片付けられるものじゃない。鋭く、力強く、異質で――それでいて禍々しさは感じられない。闘神という存在がいるのなら、きっとああいう眼をしているのではないか……そんな風に思わせる眼だった。
彼にもその自覚はあるようで、前髪で隠してくれているのが幸いだった。あんな眼で真っ向から睨まれた日には、腰が砕けてもおかしくない。……なるほど、唯の子供だなどと侮っていい相手では確かにないな。
エルだけでなく殿下からも、粘着するなと釘を刺されている事だし……ここは飽くまで一介の商人として、大水蛇の取引を持ちかけるだけにしておくか。
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~Side ネモ~
ハラディンの依頼ってのは、ギルド長が言ってたとおり大水蛇の素材の取引だったんだが、
「どちらかと言えば、こちらが欲しいのは寧ろ肉なんだが」
――と、言い出したのには驚いた。
自分で言うのも何だが、〝大水蛇を食う〟ってのは世間的には悪食の範囲に属するからな。干して旨味を凝縮させてやれば結構いけるんだが、そのままだとちと水っぽくて大味だし。他に食糧食材が無いというんなら別だが、敢えて食べる必要を認めない――ってところだろう。
それに、最近になって知ったんだが、大水蛇みたいな蛇型の魔獣は、仕留めた後直ぐに捌かないと「魔素酔い」ってやつを起こすらしい。俺は仕留めた直後に【収納】に突っ込んでたから気付かなかったが。
何でそんな扱いづらいものを欲しがるのかと思って訊ねたら、
「いや、皮とかの素材は競争が激しくて手に入りにくそうだし、肉には滋養強壮の効果もありそうだから」
――という答えが帰って来た。
確かに大水蛇の肉には滋養強壮の効果があるが、食材として認識されていない事もあって、それを知る者は――俺たち家族の他には――ほとんどいない筈だ。例外はレクター侯爵とミリィ、あとは王家ぐらいの筈だが……




