第七十四章 帰省早々 2.朝食の席で
~Side ネモ~
俺にとっては久しぶりの、家族揃っての朝食になる。ちゃんとヴィクの分も用意してあるのは嬉しいもんだ。まぁ、夕べの食卓でもヴィクはちゃんとしたマナーを披露してたし、侮られる事は無いと思ってたが。……いや、どっちかと言うと驚かれてた気もするが……従魔の教育は主の義務じゃなかったのか?
「建前としてはそうじゃろうが、それを真面目に徹底する飼い主も、あそこまでキッチリと身に着けるスライムも、普通はおらんからの」
むぅ……そんなものなのか。けど、敢えて悪しき流れに身を任せる必要は無いよな? 第一弟妹たちの教育にも良くない。
それにジュリアンたちだって、ヴィクのマナーに感心してたからな。謂うなれば王家からのお墨付きを頂戴したようなもんだ。偉いぞヴィク。
『えへへー♪』
うんうん、ヴィクは良い子だぞ。ネロとネイラもヴィクのマナーを見習わなくちゃな。
「「は~い」」
「スライムがお手本っていうのもどうかと思うけど、あのマナーを見せられるとねぇ……」
「ま、そっちはそれでいいとして、ネモはお貴族様方とも上手くやっとるんか?」
「上手くっていうか、まぁ当たり障り無い程度には」
俺個人としちゃ主役組とのお付き合いなんざ願い下げなんだが、班長なんて因果なもの押し付けられたせいで、何かと関わる機会が多くなってるんだよな。まぁ、実家の威光を笠に着て、いちゃもんを付けてくるようなのがいなかったのは幸いだが。
(「いや……どっちかっちゅうと、ネモがお貴族様方を甚振っとるんじゃなかろうかと、そっちの方を心配しとったんじゃが」)
(「あの子も黙って虐められるようなタマじゃないしねぇ……」)
(「父の店には公爵家の馬車で送って戴いたそうですから、それなりに悪くない関係なんじゃないかと」)
……祖父ちゃんたちが何か小声で話してるけど、まぁいつもの事だ。何も言ってこないって事は、俺には関係無いって事だから、気にする必要も無いだろう。
さて――飯を食い終わったところで、ちょっくら水産ギルドに顔を出してくるか。ネロとネイラはお留守番な。
「「え~?」」
「当たり前よ。夕べも夜更かしして、碌に眠ってないんでしょう。ちゃんとお昼寝を済ますまで、木琴とかいうのはお母さんが預かります」
弟妹たちが口を揃えてブーイングしてるが……諦めろ。母さんと祖母ちゃんがタッグを組んだら、家に叶う者はいないんだ。俺も木琴を持ち込んだ立場上、母さんに反対はしづらいからな。
けど……また随分と執拗に抵抗するな弟妹ども。そこまで木琴に入れ込んだのか?
……これはあれか? 玩具らしい玩具が無かったところへ、俺が木琴なんか持ち込んだもんだから、インパクトが大きかったってのか? 弟妹どもにゃリバーシ擬きも教えてるんだし、そこまで玩具に飢えるとも思えんのだが……
……ひょっとしてあれか? ちゃんと綺麗な形になった「玩具」としては初めてって事が大きいのか?
(「いや、お兄ちゃんが態々手を掛けて作ってくれた――っていうのが大きいんだと思うけどねぇ」)
(「明らかに手間がかかってそうですものね」)
……母さんたちが何かヒソヒソと囁き交わしながら、チラチラとこっちを見てるのは、俺にどうにかしろって言ってるんだろうな、やっぱり。
しゃあねぇ、ここは定番の「飴と鞭」といくか。
「あー……母さんの言う事を聞く良い子には、新しい楽譜が届くかもな」
そう言ってやると、それまでブーブーと不平を鳴らしていた弟妹たちは、ピクンと身を震わせて沈黙した。そして、
「「……悪い子には?」」
――と、恐る恐る訊いてくるので、
「ヴィクと一緒にマナーのお勉強だな」
そう返してやると、
『いいよー♪』
「「やだー」」
こらこら、ヴィクとのお勉強が嫌だなんて言うんじゃありません。
まぁ、マナーについては孰れ教えるとして、まずはお昼寝。その後は……ふむ。基礎魔法がどれくらい上達したかを見せてもらおうと思ってたんだが……ここは一工夫した方が良いか?




