第七十三章 ウォルティナ 3.ゼハンの店~スケート靴問題~
~Side ネモ~
サングラスに見切りを付けたらしいお嬢は、今度は祖父ちゃんを捕まえて、何か談判に及んでいる。……その隣にはフェリシアもいるな。
興味を惹かれて近付いたんだが、お嬢の要求は〝フェリシアに合うサイズのスケート靴を見せてくれ〟というもんだった。
いや、そりゃ妹思いは解らんでもないが、そろそろ氷も溶けるんじゃねぇのか?
「ご心配には及びませんわ。庭の池を凍らせますので」
おぉ……そうかよ。
確かに今のお嬢なら、池を凍らすぐらいは朝飯前だろうけどな。そうまでして急ぐ必要があるのか? 来年の冬じゃ駄目なのかよ?
「王都の、しかも大勢の前で、あそこまで派手にお披露目に及んだのですわよ? 少し目端の利く貴族なら、来季に向けて入手に血眼になるのは見えていますわ。品薄になる前に手に入れておきたいんですの。どうせジュリアン殿下たちにも献上してあるのでしょう?」
お嬢はごく当たり前のような口振りなんだが……
「いや……送られて来た分は選手用に廻して、余った分はギドに渡したから……」
祖父ちゃんからは――ミリィとネイトさん用を別にして――班の人数分だけ送られて来たんだが、ジュリアン・コンラート・アスラン・エルの分は、実際に競技に出るエリック・ナイジェル・クラリスに渡したからな。余った一個はギドに土産として渡したし。
そう言ってやったらお嬢とフェリシアだけでなく、背後でゼハン祖父ちゃんが息を呑むのも聞こえた。不参加者に渡す必要は無いと思ったんだが……拙かったか?
「当たり前ですわ! まさか殿下たちにお渡ししていないなんて……」
そうは言うがなお嬢。試合に出ないフォースたちより、出場メンバーを優先するのは当然だろう? それに、
「ナイジェルやクラリスが使った、謂わば中古品を、フォースに廻していいもんなのか?」
「確かにそれは……」
――ほらみろ。非難される謂われは無ぇじゃねぇか。
「……大至急殿下たちの分を用意させますので、お手数ではございますが、レンフォール公爵家の方々がお帰りになる時にお持ち願えますか?」
後で祖父ちゃんが疲れたような声を出してるが、
「いえ……どのみち私たちはネモさんとご一緒しますし、殿下たちにはネモさんからお渡しした方が良いと思います」
「……このような失態をしでかした愚孫を、殿下はお許し下さるでしょうか?」
「おぃ祖父ちゃん、どこが失態だってんだ? 限られた資源を有効に使っただけだろうが」
「だったら追加の注文ぐらい出さんか!! 畏れ多くも貴顕の方々を蔑ろにするとはどういう了簡じゃ!?」
いや貴顕って……ジュリアンだぞ? 王族というならもう一人、密かに亡命中の腹黒王子がいるが、そっちは表沙汰になってねぇからな。
祖父ちゃんとの認識の温度差に、どうしたもんかと内心で頭を抱えていると、お嬢が助け船を出してくれた。
「……あの試合も『魔導学園』の威信を賭けたものでしたから、それを優先したネモさんの判断に間違いは無かったと思います。その後は……気温も上がって氷滑りには不向きな気候になっていましたから、それほどご気分を害されてはいないと思いますわ」
「……然様でございましょうか?」
「今回の帰省を機として、ご実家から献上されれば、王家の覚えも目出度くなると思います。不肖レンフォール公爵家としても、微力ながらお口添えをさせて戴きます」
「おぉ……」
……祖父ちゃんは豪く感動してるが、ジュリアンたちは気にしてない……てか、気にしてる暇とか無かったからな? スケート勝負から五日ほどで学園祭になって、「ジュリアン将棋」……じゃねぇ、「覆面チェット」やら「大エド捜索網」やらに散々振り回されたんだ。ま、これも色々と表沙汰にできねぇ部分があるんで、祖父ちゃんにも説明できんのだが。
まぁ来季の事も考えて、ジュリアンたち四人にスケート靴を贈るってのは良いアイデアかもしれん。ここはお嬢の提案に乗っとくか。




