第八章 五月祭 3.土産物検分録(その2)
~Side ネモ~
エルは王都の名物として常設の見せ物小屋を挙げてくれた。確かに納得だが……こりゃ、土産に持ち帰るってわけにもいかんしなぁ。パンフみたいなのでも置いてありゃ別だが、そんなものは無いようだし、第一俺が見てもその面白さを伝えられるかどうか自信が無い。
ただまぁコンラートの言うように、ここ王都は各地の名産が集まる物流拠点として捉えた方が好いかもしれん。……となると、どんなものが売ってるかだが……
「……おぃ、参考までに訊きたいんだが、今までに貰って嬉しかった土産って、何だ?」
……ん? 本当に参考までにと思って訊いたんだが……何で皆固まってるんだ?
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~Side エルメイン~
子供の頃に貰って嬉しかった土産――と、訊かれても……
一応兄も弟もいるが……兄弟の間で土産の遣り取りなどした事は無い。父にしても、俺たち兄弟に土産を持ち帰った事などあったか? ……いや、狩りのついでに鷹の屍体を持ち帰ってくれた事があった。翼から矢羽根を採った憶えがある。他には……あぁ、小鼠をくれた事もあったな。弟たちと焼いて食べた。
……ただ……何となくだが、ネモの弟や妹は喜ばないんじゃないかという気がする。
アスラン様には歳の離れた兄君たちがおいでになるが、腹違いという事もあって親しくしてはいらっしゃらなかったし……すぐ上の兄君などは今回の政変の張本人でいらっしゃるからなぁ……。どなたにせよ、土産などお持ちになった事は無いだろう。父王陛下は、俺の知る限り王宮から出られた事は無かったし、必然的に土産など下さった事は無い筈だ。
はて……何と答えればいいものか……
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~Side ジュリアン~
子供の頃に貰って一番嬉しかったものと言えば……子馬なんだけど……そう答えたら凄く怒られそうな気がするな、うん。
……他には……あぁ、兄上がくれた剣があったか。子供にも握れるように万事小作りに拵えてあった。嬉しくって振り回して……カーテンに斬り付けて台無しにして……アガサに大目玉を喰ったっけ。自室から持ち出すのを禁じられたんだ。
異国の果物なんかも時々食べさせてもらったけど、あれは僕へのお土産というより、戴きもののお裾分けだったような気がする。他には……そうそう、絵本があった。外国の王子の冒険談で、毎晩読んでくれとせがんでいたような気がするな。
人形とか帽子とかも貰ったような気がするけど……能く憶えていない。
……うん、これからは誰に何を貰ったか、きちんと憶えていないと駄目なんだろうな。……あぁ、何だか憂鬱になってきた。……いや……全部コンラートに押し付けようかな?
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~Side ネモ~
何と言うか……文化や身分の違いってやつは、土産一つにも反映されるもんなんだな。
鼠と子馬は論外として……ジュリアンのやつが貰ったのは真剣みたいだが、子供向けに玩具の木剣とかは売ってないのか? ここまでの露店でも見かけなかったんだが。そう訊いてみたら、なぜか残念な者を見るような視線を向けられた。
コンラートのやつが噛んで含めるように教えてくれたところによると、この国では木材ってやつは貴重品らしい。魔獣が出没する事もあって、山に入ってのんびり木を伐るような真似はできないんだと言っていたが……俺の田舎、普通に木材を使ってたような気がするんだが? ……あぁ、そう言えば、湖に浮かぶ流木とかが流れ着く事が能くあったっけ。山に生えている木も比較的細いものが多かったし、伐るのも楽だったのかもな。
そう言ってやったら、今度はお大尽を見るような目を向けられた。解せぬ。
剣の玩具は却下されたが……絵本かぁ……。うちのチビども、まだ文字は読めなかった筈なんだが……絵だけ見てても面白いか? それで興味を持って文字を憶えてくれたら、兄としても嬉しいんだが……問題なのは……この世界、活版印刷が普及していない……って言うか知られていないから、本は全て手書きの写本で、馬鹿高いんだよな。ページごとに版木を組んだ木版印刷もあるけど、こっちはこっちでやっぱり高いし……何より、着彩された絵本なんて手描きだからもの凄く高くなるんだよな……
あとは帽子かぁ……子供用の帽子なんて、いったい幾らするんだろ。