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第七十二章 相乗り帰省道中記~六日目 道草~ 2.路傍の遺址(いし)(その1)

 ~Side ネモ~


 余計な面倒に(かかずら)うのは勧められたもんじゃないが、仮にもお貴族様の進路脇で、不審者の集団が攻撃魔法をブッパしているのを放置するというのは、護衛としては無しなんだろう。二人ほどが、冒険者たちの(もと)へ事情を訊きに向かって行った。

 その結果判った事情ってのが……


「領主から冒険者ギルドへの依頼……?」


 大奥様が()(げん)そうな声を上げたが、正直俺も同感だ。

 そりゃ、街道の傍に古色蒼然・旧態依然・倒壊寸前の空き家があるってのは、防犯上からも危機管理上からも褒められたもんじゃない。領主として取り壊すという判断は間違ってない……と、思う。

 けど、そんなのは地元の領民を動員して片付けさせるべきだろう。移動の手間も省けるし、公共事業の一種だと思えば、地元民の慰撫(いぶ)にも有効な筈だ。それくらいの道理も解らんような愚物に、領主なんて大役務まるのか……?


 内心でそう(いぶか)ってたんだが……


「いえ、それが……(くだん)の屋敷はその昔、有事の際の抵抗拠点として建てられたものだそうで……」

「「あぁ……」」


 大奥様とお嬢はそれだけで事情を察したようだが、庶民の俺にゃ珍紛(ちんぷん)漢紛(かんぷん)だ。一人蚊帳(かや)(そと)に置かれたみたいで、正直気分の好いもんじゃないが、貴族特有の面倒な事情ってやつがあるんだろう。そんなもんを説明されても、それはそれで面倒に近付いてく気がする。

 ……ここは純朴善良な一平民として、華麗にスルーを決め込んで……


「ネモさんにも解るように説明しますわね」

「……ありがとよ、お嬢……」


 改めて説明を聞いてみりゃ、そこまでヤバげな話じゃなかった。

 問題の空き家ってのは、要するに有事の避難所みたいなものとして造られたやつの()(ごり)らしい。さすがに古くなっていい加減ガタもきてるってんで、今は使われる事もなく放置されてるそうなんだが……


「何しろ〝有事の拠点〟として造られたものですから、とにかく大変に頑丈ですの。えぇ、本当に大変なくらい」

「……つまりそれは、〝壊すのが大変〟って意味に取っていいんだな?」

「お察しのとおりですわ」


 あー……前世でも似たような事を聞いた事があったな。

 戦前に建てられた校舎が、それこそ防空壕かトーチカの代わりが務まりそうなくらい頑丈だったもんで、建て替える事もできずにそのまま使ってる――とか、何とか。

 あれと同じような話と考えりゃいいのか。……大変そうだな。


「本式に解体しようとしたら、予算が幾らあっても足りないというので、取り敢えず冒険者に依頼して破壊する事にしたようですわ」

「問題なのは、第一にあの廃屋が魔物や()(てい)(やから)のアジトとなる事、第二に倒壊して被害を出す事でしたからね。その懸念が無くなる程度に壊すだけなら、(むし)ろ冒険者の方が適任だと考えたようですね」


 お嬢と大奥様が交々(こもごも)に説明してくれたんで、この場に冒険者がいる理由についちゃ納得できた。


 で――そいつらが(いま)だに蛮声を上げて攻撃魔法を乱射乱撃してるってのは……


「えぇ。どうも耐火か何かの付与(エンチャント)が生き残っているようですね」


 改めて問題の〝廃屋〟に目を向けてみると、なるほど確かに朽ちかけちゃいるが、まだまだ風雨を凌ぐ程度には使えそうな……って、()く見りゃ木造建築じゃねぇか。こっちの世界じゃ木材が――森が魔獣の(すみ)()になってるせいで――得にくいから、土魔法頼りのなんちゃって石造建築が多いって聞いたんだが?

 不審に思って訊ねてみたら、ここは河が近くに迫っているせいで、石造りだと湿気が酷い事になるんだそうだ。で、通気性のまだマシな木造で建てたんだと。

 木造建築の理由はそれで判ったが……耐火の付与(エンチャント)


 一人で首を(かし)げていたら、もの知らずな平民の()(せがれ)を哀れに思ってくださったのか、大奥様が説明してくれた。

 まず、木造で軍事拠点のようなものを造る場合、耐火防火を第一に考える――これは解る。

 具体的には、難燃性の材で建築した上に、抗・火魔法の付与(エンチャント)をかけるんだそうだ。木材だから大熱量をぶつけられりゃ燃えるんだが、難燃性を(うた)うだけあって、松明(たいまつ)程度の火じゃ()()げ一つ付かないんだと。勢い、火魔法に頼る事になるんだが、


「それで抗・火魔法の付与(エンチャント)か……」

「えぇ。手軽な割に有効な方法ですし。ネモさん風に言えば、〝費用対効果比(コスト・パフォーマンス)が高い〟というのですかしら」


 なるほど、確かに悪くない手じゃある……火魔法だけを相手にするんならな。だが、家屋を破壊できるのは、別に火魔法だけじゃない。風魔法じゃちょい難しいかもしれんが、地盤を揺るがす土魔法なら(むし)ろお手のものだろう。


「あの……家を崩すほどの土魔法の使い手となると、王都でもそこまで多くはいませんわよ?」

「領主のお抱えにいるとしても、拠点構築用に秘蔵されて、前線に出される事は無いでしょうね」


 俺の(つたな)い提案はお嬢と大奥様に駄目出しを喰らったが、それを抜きにしても、


「……依頼を受けたのは冒険者だったな」


 荒事上等の冒険者だが、その〝荒事〟の相手は多くが魔獣、次いで盗賊ってところだ。対人・対魔獣戦の効果が高い火魔法を使う者は多くても、対家屋用の土魔法を鍛えてるやつなんざいないだろう。

 結果、あぁして()(ざま)(さら)してるってわけだ。


 公爵家としてはどうするつもりだと思っていたら……


「……ネモ君、ドルシラ(ドリー)貴方(あなた)たちに相談があるのだけど」


 ……大奥様が俺とお嬢の方を向いて話しかけた。きっと面倒な話なんだろう。

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誤字報告機能がOFFになっているのでこちらから >戦前に建てられた校舎が、それこそ防空壕かトーチかの代わりが務まりそうなくらい頑丈だったもんで、建て替える事もできずにそのまま使ってる――とか、何とか…
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