第七十一章 相乗り帰省道中記~五日目 カソルの町~ 1.冒険者ギルド(その1)
~Side ネモ~
帰省五日目にしてカソルの町に着いたが、ここは昨年、あの勘違い青二才が俺に絡んで来た町だ。ここのギルマスは確り躾直すと言っていたが、それで性根が改まるかどうかは五分五分……よりちょっと悪いんじゃないかと俺は見てる。
万一生意気な青二才がお嬢に絡んだりしたら、俺はともかく冒険者ギルドの面子に関わる、いや、下手すりゃカソルの領主と公爵家の対立……なんて騒ぎにも成りかねん。
――ここはギルドに一言釘を刺しておいた方が良いだろう。
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そう考えて、お嬢たちと別行動をとろうとしたんだが……
「私、不勉強にして冒険者ギルドを実地に見た事がありませんの。宜しければネモさんのお勤め先というのを拝見したいですわ」
……なんて、面倒な事を言い出しやがった。
そもそも、俺のバイト先は王都ギルドであってカソルのギルドじゃねぇ。俺はここじゃ一介の他所者に過ぎんのだから、仕事ぶりなんか見せられるわけが無ぇだろう。
そう情理を尽くして説明し、何とか思い止まらせようとしたんだが……何故かレンフォール伯爵夫人までが悪乗りして、結局皆で蹤いて来る事になっちまった。
……俺は精一杯努力したんだからな。
何かあっても怨まんでくれよ、ギルマス。
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~Side ドルシラ~
ネモさんが地元の冒険者ギルドを訪ねるというので、社会勉強の口実で同行させて戴きました。
ネモさんは〝荒くれどもの巣窟だから〟と、難色を示しておいででしたけど……ネモさんがご一緒なら危険はありませんし、上手くすればこちらの領主の弱m……コホン、交渉カードを手に入れる事ができますものね。貴族たる者、躊躇う事などあり得ませんわ。
そうして訪ねた冒険者ギルドでは、期待通りの……いえ、正直期待以上の展開が、私たちを出迎えてくれました♪
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「おぃおぃ、ルイスのやつを凹ませたってぇからどんな猛者だと思ってたが……こんなガキに伸されちまったってのか? ルイスの奴もだらしが無ぇぜ」
……何という事でしょう♪ 王都では決して見る事のできないであろう光景が、今正に私たちの目の前で展開されようとしています♪
まさか、あのネモさんに難癖を付ける勇者(笑)がいるとは……地方の冒険者ギルドというのも、中々に侮れないもののようです(笑)。
挑発しているつもりらしい冒険者に、ネモさんが何か一言二言返すと、逆上したその冒険者がいきなり殴りかかって来ました。
背の高さだけならネモさんも引けは取りませんが、体重では一歩譲るようです。……まぁ、贅肉が多いだけとも言えますが。
ネモさんは突き出される拳を冷静に半身になって躱すと、逆にその腕を取って引くと同時に足を掛け、ご自分を中心とした円運動に巻き込んで引き倒そうとなさいました。
身体がつんのめりそうになって慌てた冒険者が蹈鞴を踏んで抵抗し、引き倒されかけた身体を起こそうとしたのですが……ネモさんはその動きに付け込むように男を仰け反らせ、がら空きになった喉に下から拳を叩き込んだかと思うと、次の瞬間には手を矢筈の形に拡げて喉を掴み、そのまま一気に切り落として、男の後頭部を地面に叩き付けました。
その切り落としの速さを見れば、最初の引き倒しは誘いであった事が明らかです。ネモさんは然り気無く男の膝の後ろを蹴って、体勢を崩してもいたようです。芸達者……いえ、洗練された動きですわね。公爵家の護衛にも、あそこまでの動きができる者はそういないと思います。モローも顔を引き攣らせていましたし。




