第六十九章 相乗り帰省道中記~一日目~ 2.同行四人の馬車旅行
~Side ネモ~
――てな次第で、俺は身に余る高級馬車に、女性三人と一緒に乗る羽目になった。……そう、女性三人だ。
お嬢と大奥様と、もう一人はカサンドラさんっていう護衛さんだった。何でも元は騎士様だったとかで、腕の方も確かなようだ。パッと見た感じだと、アレンと遣り合うなぁちときつそうだが、そこらの破落戸じゃ相手にならんだろう。今のレオやナイジェルでも難しいだろうな。エルなら好い勝負をしそうだが。
今回同行する女性の護衛さんはもう一人いて、アンネリーゼさんというそうだが、同じ護衛仲間のダニエル・モローって人と好い仲だとかで、〝引き離すと愚痴が煩いので一緒にさせている〟そうだ。腕の方は確かなそうだが……いいのかそれでレンフォール家。
まぁ、男が俺一人ってなぁ多少気詰まりだが……幸いにカサンドラさんは俺に敵意を向けるような真似もしなかったんで、俺も如才無く対応できた……筈だ。
全く……爺の護衛のレミディオとかいうやつとは大違いだぜ。カサンドラさんの爪の垢でも呑ませてやりたいもんだ。
まぁ――そんな感じで事も無く、馬車は順調に進んで行った。
雪道とは言え王都の近くは、さすがに除雪も舗装もしっかりしていて、馬車が難儀するような場面は無かった。まぁそれ以前に、多少の雪ならお嬢が火力にものを言わせて消し飛ばすしな。聞くところに拠ると、サラゴスの辺りまでは街道も大体こんな調子らしい。
そして……ここが重要なんだが、馬車の乗り心地は特記ものだった。何しろほとんど揺れないんだわ、これが。
俺はそもそも、馬車なんて高級なものに乗った経験は多くない。最近だと郊外実習の時と雪山への救難出動の時、あとは夏の帰省時に、ゼハン祖父ちゃんが手配してくれた高速馬車で王都まで帰った時くらいだ。
前世のラノベで、昔の馬車の乗り心地について読んだ記憶はあるんだが……俺の数少ない経験は、それらの知識を裏切らないものだったとだけ言っておこう。……尻が罅割れるかと思ったぜ。
特に高速馬車とか、四頭立てだから速いには速いんだが、上下運動も凄まじかったからな。ありゃ揺れるなんてもんじゃねぇ、跳ねるっていうのが正しいわ。……何度か天井に頭をぶつけたしな。
――しかぁし! 声を大にして言いたいが、レンフォール家の馬車はそんなもんじゃなかった!
そりゃ、前世の新幹線なんかと較べんなぁ酷ってもんだが、石畳を走ってるって信じられないほど静かだった。勿論、道路の状態が良いって事もあるんだろうが、
「新型の制振装置を載せた最新モデル……だそうですわ」
「新型の制振装置?」
慣性制禦装置でも載っけてんのかと思ったが、そっち方向に〝新型〟なんじゃねぇらしい。
「本来は盾とか防具に付ける、衝撃吸収系の技術だとか聞きましたね」
軍事技術の転用かよ。そりゃ、確かに最新式かもしれんが……
「一般にはまだ広まっていないそうですね。費用が高過ぎるんだとか」
……って事は、乗合馬車は当分あのまんまなのか。早いとこ技術革新が進んでほしいもんだぜ。
しかし……馬車の動きがここまでスムーズでスピーディだと、徒歩で随行するなんざ無理があったか。下手すると、移動の足を引っ張るだけに終わってたかもしれんな。
夕暮れを前にしてコラードの宿場が見えてきた。てっきり宿場町で一泊するんだろうと思ってたんだが……違うのか?




