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第六十八章 卒業祭~楽日~ 11.竜頭蛇尾の結末

 ~Side ネモ~


「てぇと何か? 最初っから最後まで、誘拐だの陰謀だのは影も形も無くて……」

「全ては巡り合わせの悪さだったという事ですの?」

「そういう事だ。全く、何でこんな大騒ぎになったのか……元凶の一つとなったリーベック家には厳重注意の沙汰が下ったそうだが、その一方であの馬鹿騒ぎが無かったら、学園にコソ泥が現れた可能性もあるわけで……強い言葉で(とが)める事もできないというのが本当のところなんだ」


 事が事だけに王家転覆の可能性すら無視できねぇってんで、チンピラとガキんちょの訊問は、お偉いさんが直々(じきじき)に手を下しあそばして、俺たちゃ蚊帳(かや)(そと)だったんだが……訊問の結果、この件に謀略性は無かったと判明したところで、俺たちもコンラートからその内実ってやつを教えてもらった。

 ……のはいいんだが……これがまぁ、呆れるくらいに不運と間抜けのスパイラルだった。


 最初のトリガーは、エドのガキんちょが学園を抜け出した事で引かれたらしい。学園側も、不審者の入園には眼を光らせてたみてぇだが、子供の抜け出しは目配りの対象外だったようだ。以後は綱紀の粛正を図る――って、学園側も息巻いてるらしい。

 で、首尾好く学園を抜け出したガキんちょは、何の不都合も不自由も無く、王都の散策を楽しんでたらしい。……もうこの段階でゲームの展開とは違ってるわな。


 で――騒ぎの第二幕は、ガキんちょがチンピラと出会う場面から始まったらしいが……


「結局、あの二人組は空き巣狙いだったってオチか」

「この場合、空き巣狙いという言葉が適切なのかどうかは解らんが……まぁそうだな」

「ドラマが一気に慎ましくなりましたわね」

「代わりにコメディとしちゃ盛り上がったんじゃねぇか?」

「吟遊詩人の好みそうな題材ですかしら?」

「それも懸案になっているらしい。不発はしたが、一時は反王家の陰謀の可能性まで取り沙汰されたわけだし、笑い話にしていいものかどうか……」

「あー……(わざ)馬鹿(ばか)(ばなし)にして笑い飛ばすって手もあるが、下手すると王家の取り越し苦労まで、お笑いのネタになっちまうのか……」

「全く……何でこんなおかしな事になったのか……」

「それについては、犯人の二人が一番身に()みているのではありませんこと?」

「まぁそうだろうな」


 ――()手人(しゅにん)どもの狙いってのは、卒業祭の混雑に(まぎ)れて学園に入り込み、複製した合い鍵で備品庫から品物をくすねようって事だったらしい。金庫じゃなくて備品庫ってのが(つつ)ましいが、反面で発覚するのは遅れただろうからな。リスクとリターンを天秤(てんびん)に掛けた場合、悪くない計画だったかもしれん。


「それ以前に幾ら備品庫でも、合い鍵が複製されたという事の方が大問題だ」

「幾ら建て付けが悪くなったからって、中古品で間に合わせたりするからだ」

「それも予算の問題が絡んでいたらしい。……全く、財務部のダニどもめが……」

「あー……あの件がここまで根を張ってたのかよ」


 合宿所襲撃の件に絡んで、予算をちょろまかしてた財務部が粛清されたって話は聞いたが、そのちょろまかしが備品庫代にまで及んでたってのは……或る意味で涙ぐましいって言うのか……

 ま、それはそれとして――だ。


「肝心要のその合い鍵を、カラスに持ってかれたってのがなぁ……」

「小鳥が見憶えていたのって、この場面でしたのね……」

「それについてはフォゼカイア師から聞いた。自分も観てみたかったものだ」


 で――執念深く追っかけられたカラスが根負けして鍵を落とし、それを拾ったのが……


「エドウィン少年だった……という事ですのね」

「少年は単なる好奇心から拾ったようだがその直後に、決死の(ぎょう)(そう)で迫って来る人相の悪い二人組に(おび)えて、反射的に逃げ出したそうだ」

「……身につまされる話だな……」

「あ、いや……ネモはそこまでアレじゃないと思うぞ」

「孤児院でも人気でいらしたじゃありませんの……色んな意味で」

「アグネス嬢からの警戒は高まったようだったが……」


 ……まぁ追跡劇の第二幕は、〝悪戯(いたずら)小僧が何かをちょろまかしたのを追いかけてる大人〟って感じに見えたらしく、通報はされなかったみてぇだが、首尾好く子供を捕まえた後、


「何で引っ立てて行こうなんて思ったんだ? あの馬鹿どもは」

「それさえしなければ、こうも大騒ぎにはならなかった……違いますわね。誘拐騒ぎはそのままでも、自分たちが巻き込まれる事は無かった筈ですのに」

「いや、何しろ物が合い鍵だからな。証人を残すのは(まず)いと思ったようだ」

「で、()(くず)しに隠れ家に連れ込んだのはいいが」

「あぁ。無駄に目立った上に、卒業祭の終了時刻は迫るわ、子供を放って置くわけにもいかないわ、()りとて手に掛けるのは割りに合わないわ――で、途方に暮れていたらしい」

「挙げ句に取っ捕まったんじゃ、文字どおり〝泣きっ面に蜂〟ってやつだな」

「……(うま)い言い回しだな。だが、幸か不幸か量刑は軽くなりそうだ」

「あぁ……空き巣は未遂、誘拐もその意思が無かったわけだしな」

「形式上は、〝盗まれた〟鍵を追っていただけですものね」

「罪に問えそうなのは合い鍵ぐらいか」

「それすらも、中古品の合い鍵を偶々(たまたま)手に入れたというだけだからな」

「〝()(ふく)(あざな)える縄の(ごと)し〟……って、こういう時に使うのですかしら」


 終わってみりゃ(まさ)に〝大山(たいざん)鳴動(めいどう)して鼠一匹〟って感じだったが……ま、ここんとこ凹み続きの騎士学園が面目を施したって事で、そう悪い結末じゃなかったかもしれんな。

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