第六十八章 卒業祭~楽日~ 10.クライマックス(その2)
今回解らないネタは、(生)温かい目でスルーして戴けると助かります。
~Side ネモ~
本命らしいのが見つかったってんで、コンラートが連絡してきた辺りに出向いたんだが、やつらは影も形も無ぇ。こっからやつらの残した〝目印〟ってのを探さにゃならんのか。面倒臭ぇ。辻神に標を残しておくとか言ってやがったが……「辻神」って何だ?
「あら、ネモさんはご存じありませんでした? 道の辻に御座しまして、悪霊や災いの侵入を防いでくださる神ですわ。道の辻々にはそのご神像をお祀りして、平穏無事を祈るのが習わしなのです」
あー……そう言や故郷の村にもあったな。辻の隅っこに、曰くありげな石が置かれてたわ。道祖神とか石地蔵とか塞の神とか、そんな感じのもんだろうと勝手に納得して、普通に手を合わせてたんだが……あれが辻神様ってやつか。
王都でも時々見かけたんで、その都度黙礼はしてたんだが……アレに目印? まさかと思うが……ペンキで落書きだなんて、罰当たりな真似をしたんじゃねぇだろうな?
「ふむ……あれではないかな?」
「……多分そうですわね」
フォゼカイアの爺さんとお嬢が指し示す方を見ると、何だか赤いもんが見えた。……ってか、神像が赤い鉢巻きしてんじゃねぇか。……やつらの中に日本からの転生者でもいるんじゃねぇだろうな。
……一応、確かめておくか。
「お嬢、神像にあぁいうのを巻き付けんなぁ、普通じゃねぇのか?」
鉢巻きはともかく、お地蔵様が赤い涎掛けしてんのは能く見たからな……前世で。
「普通はいたしませんわ。……ネモさんの故郷では違いましたの?」
「いや、俺の田舎でも見なかったが、止ん事無き方々の集う王都じゃ別なのかと思ってな」
祭祀習俗なんて土地それぞれだろうと思ったんで確かめたが、王都でもそういった事はしないらしい。て事は、地蔵……じゃなくて〝神像に赤い鉢巻き〟ってのは普通じゃねぇって事で、コンラートが残した目印って線が有力になってきたわけだ。
この場所に何かあるって事も考えられるが……
「あ、あちらの辻神にも赤いものが見えますわね」
「ふむ……辻神の像なら辻毎に祀り置かれるのが普通じゃ。目印を残すには好都合じゃろうな」
……てな次第で、俺たちは目印を追って行き、ポツンと一軒建っている小屋に辿り着いた。それっぽいと言えなくもないが、誘拐犯のアジトにしちゃチンケな気がする。とは言えエルのやつが入って行ったようだし、ここで間違い無いだろう。
窓からこっそり中の様子を眺めていた俺は、目の前で繰り広げられている小芝居に頭を抱えたが、お嬢と爺さんも同じ気持ちらしい。……何だよ、〝同じく、イーサック・ジュード〟って、そっちかよ。……あいつ、本気で転生者とかじゃねぇだろうな。……いや、名前や家名を勝手に変えるような真似はできんだろうし、この展開も狙ってできるもんかどうかは怪しいから……正真正銘の偶然なのか?
取り敢えず、あいつの事は心の手帳にメモっておくとして……後から駆け付けて来た連中がいるな。途中で足音を殺したところを見ると、多分……
『マスター ナイジェルたちが きたよー』
――丁度好いな。逃げ出した二人はあいつらに任せるとして……
「お嬢、出遅れたみてぇだが、どうする? あのチンピラでも取っ捕まえるか?」
大見得を切る機会を逸したお嬢に訊ねてみたが、お嬢は黙って頭を振った。
「道化を演じるつもりはありませんわ。ネモさんこそ宜しいの?」
「俺もコメディ向きのご面相じゃねぇしなぁ。フォゼカイア老師は?」
「年寄りの出る幕ではなかろうよ」
――てな感じで、俺たちゃ観客に徹する事にした。まぁ、そっから先は大した山場は無かったんだがな。
て言うか……後になって取っ捕まえた下手人どもから訊き出した顛末ってのは、もう脱力もんの間抜け噺だった。




