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眼力無双~目つきで苦労する異世界転生。平穏なモブ生活への道は遠く~  作者: 唖鳴蝉
第一部 一年生一学期~裏腹な新生活の始まり~
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第八章 五月祭 1.悩める長男

 ~No-Side~


 オルラント王国の王都オルソミアで執り行なわれる五月祭は三日間、それぞれに創世祭・建国祭・若木の祭りと呼ばれる三つの祭りから成っている。

 初日に行なわれるのは創世祭。教会が主体となって行なわれる祭りで、この世界を生み出した神々に感謝を捧げる祭りである。

 二日目の祭りは建国祭。こちらは王家が中心となっており、この国を建国した初代オルラント王の業績を称える祭りである。

 三日目は五月の満月の日に執り行なわれる若木の祭りで、王都だけでなく各地の村々で広く行なわれている祭りである。魔力に満ち溢れている森から若枝を持ち帰り、それを畑に挿してその周りで踊るというもので、最後には村人たちが家ごとに葉っぱを一枚ずつ持ち帰る。山や森の生命力を農地へ分けてもらう事を祈願する祭りで、地球の各地にも同様の祭礼は多く見られる。ネモの実家のあるリット村では、農耕地が少ない事もあって、若枝はタイダル湖畔の船着き場に置かれ、その周りで踊るようになっていた。王都では王宮から若枝を持って来て広場のメイポールに付け、周りで踊る形式になっている。森の代わりを王宮が務める形である。祭りが終わると枝は教会で焚き上げられるため市民には渡らないが、それとは別に町役人たちが若枝を森から採って来て、住人がその葉っぱを持ち帰るようにしている町区もある。


 地方の村では若木の祭りだけを行なうのが大半であり、それから察するに、国と教会が若木の祭りを利用する形で建国祭と創世祭をくっ付けた――それによって建国祭と創世祭り、別の言い方をすれば王家と教会の周知を図った――のが、現在の五月祭の起源であろうと推定される。


 その王都オルソミアの五月祭、初日の神楽(かぐら)舞を興味深げに参観した後、ごった返す中を縁日の露店を冷やかしながら歩いている、背の高い少年の姿があった。言わずと知れたネモである。



(さすがにお神楽(かぐら)は見応えがあったが……チビたちが話を聞くだけで満足するほどのものじゃなかったしなぁ……)



 ネモが頭を痛めているのは、帰郷の時に弟妹へ渡す土産(みやげ)の事であった。

 魔導学園では三月と八月に丸々一ヵ月の長期休暇があり、これを利用して故郷に帰る者も多い。十二月から一月にかけても半月ほどの休暇があるが、こっちは積雪のために帰郷できない者も多く、大抵の生徒は寮でのんべんだらりと過ごしている。


 ネモも(きた)る八月には実家へ帰るつもりでいたが、問題はその時に持ち帰る王都の土産(みやげ)である。王都に来てからまだ日が浅い上に、ほぼ学園と冒険者ギルド、宿を往き来するだけの生活をしているネモは、王都の名産名所についてはまるで(うと)い。何が土産(みやげ)に最適なのかが判らないのであった。

 祖父と父には酒で、祖母と母には布で好いだろうくらいの判断は付いたが、問題はまだ幼い弟妹である。子供が喜ぶようなものが王都のどこに売っているのか、ネモには見当が付きかねた。五月祭という大きな祭があると聞いて、ここなら何か見つかるだろうという期待を抱いていたのだが……五月祭の前哨戦とも言うべき大武闘会のエキシヴィジョンマッチで不必要に目立ってしまい、ほとぼりを冷ますべく大武闘会の期間中は冒険者ギルドに引き籠もっていたのである。大武闘会が終わり五月祭の本祭が始まると聞いて、こっそり表に出てきたのだが……



(大したものが置いてないんだよなぁ……)



 元々縁日で売っているものは、帰郷の際の手土産にする事など考慮してはいない。その場で食べたり楽しんだりするものがほとんどである。ネモは【収納】というレアスキルが使え、家族にもそれを隠していないからこそ、こんな事を考えたのであった。



(綿菓子やリンゴ飴はさすがに無いだろうとは思ってたが……)



 飴くらいはあるだろうと思って探してみると、確かにあるにはあった――馬鹿高い割に地味な色の、あまり子供受けしそうにないものが。



(こんなん持って帰ってもなぁ……下手したら俺が作った方が安く上がりそうだし……)



 ネモは前世日本の感覚でカラフルな飴やカルメ焼きを探していたのだが、こちらの世界でそんなものが、しかも庶民向けの価格で売っているわけが無い。ほぼ南国からの輸入に頼っているため、砂糖は高級品なのである。()して白砂糖を使うしかない着色された飴など、祭りの縁日ごときで売っているものか。

 ドライフルーツは見つけたので、少し高いがこれは買っておく。見慣れない果実を使っているようだから、恐らくは他国からの輸入品だろう。【眼力(がんりき)】で鑑定して、品質に問題が無い事を確認して購入した。

 それ以外の食べ物はと言うと、圧倒的に串焼き系が多く、今この場で買う必要が無さそうな気がする。ガレットのようなものも売られていたが、多分【調理】スキルを持っているネモが作った方が美味くて安いだろう。ジュース類も売ってはいたが、生憎(あいにく)と前世日本のような紙コップではなく、容器は返却が基本であった。いくら【収納】があるとは言っても、土産(みやげ)に持ち帰るのは面倒である。


 総じて食べ物系のものは、ネモが作った方が早いか、実家で既に食べさせているものの下位互換であった。弟妹にはあまり受けそうな気がしない。



(だったら玩具(おもちゃ)系はどうかと思ったんだが……そもそも思っていた以上に売り物が少ないな……)



 前世日本の縁日ならほぼ定番であったビックリ系の玩具(おもちゃ)――ゴム製のクモとかムカデ、ウ○チなど――は無いだろうと思っていたが、それ以外の(かざ)(ぐるま)やびっくり箱、人形や起き上がり小坊師(こぼし)なども見かけなかった。それどころか(たこ)も見なかったのである――ネモは実家で作ってやっていたのだが。



(ゴムの代わりにスライムか何かの素材で……って思ってたんだが……仮にも魔物の素材を、子供のビックリ玩具(おもちゃ)になんか使わんのかな……?)



 しからば楽器はどうだと探してみても、これまた売っていなかった。いや、正確に言えば道具屋の露店のようなところで売ってはいたが、明らかに子供向けではない大きさと細工と値段であったのだ。

 一つには、この国には竹やヒョウタンのように内部が中空になる植物が生えていない事もあるだろう。しかし、それにしても――とネモは考える。



(ガラス製品のビードロは無理だとしても、土器の笛やでんでん太鼓くらいはあるんじゃないかと思ってたんだがなぁ……)



 当てが外れて途方に暮れるネモであった。


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